無口という病気の良人が、
初めて外でものを申した。
私は、本当にびっくりした。
置地廣場 |
昨夜は、外の空気を吸った方が良いと、ファミレスに良人を連れ出した。
金曜日の夜だというのに、テーブルは半分も埋まっていなかった。
営業時間が短くなって、客離れを起こしているのではないかと思ったぐらいだ。
注文したのは、ハンバーグ、エビフライとかにクリームコロッケ、国産豚肉とポルチーニクリームソースのフェットチーネだった。
店舗は空いているのに、待てど暮らせどテーブルに注文したものが来ることはなかった。
コーヒーを飲んで、紅茶を飲んんで、また紅茶を飲んで、ウーロン茶を飲んで凌いでいた。
そのうち、空腹から、ただただ空を見ていた。
良人は、スマホを覗いたままだった。
勿論、会話はない。
そこに、ハンバーグ、エビフライがようやくテーブルに届けられた。
どちらも冷えていることが、直ぐにわかった。
いつもなら鉄のプレートの上でハンバーグはジュージュー音を立てて、肉汁が飛ぶので一緒に運ばれてくる大きな紙ナプキンを急いで胸に当てるのだ。
ところが、ジュージューどころか、手をかざしても温かさが感じられない。別添えのソースも冷えて、膜ができて沈んでいた。
エビフライに手をかざしても冷えていた。
運んで来たスタッフに、温かくなさそうだと伝えると、
「そうですね。」と返事が来た。
そして、「作り直すには時間がかかります。」とスタッフは言う。
どうするかなと私は考えた。
下手な洋食屋よりは、どれも値段が高いのだ。
ハンバーグが1328円、エビフライが1760円だ。
私が、受け入れるべきかと葛藤している間に、
良人が注文したフェットチーネが、運ばれて来た。
フェットチーネも、伸びきってぐちゃぐちゃだった。
それを見た良人が、「これはないんじゃない。」スタッフに言ったのだ。
大きな声ではなかったけれど、重く響いた言葉に、スタッフが時間がかかりますが、作り直しましょうかと言った。
そこでもスタッフが、作り直すとは言わず、作り直しましょうか?と聞いていることに、私も呆れてはいた。
いつもなら、私が黄色い声で、クレームを言うのだけれど、
遅くなった事情も思い当たって、スタッフを気の毒にも思ったのだ。
置地廣場 |
近くのテーブルに7人の高齢者がいた。
75歳以上であろう、男1人、女6人のグループだった。
食事を終えた集団は、飲み物が飲みたいと誰かが言い出して、
私も私もとなり、スタッフを呼んだのだ。
「コーヒー飲みたいんだけど!」と言う声に
スタッフが、伝票を睨みながら、ドリンクセットの注文がいくつあるか、 確認を始めた。
ドリンクバーがセットになっている者が7人のうち2人はいると言うことがスタッフによってようやく明らかになった。
ところが、食事を済ませてしまって、何を食べたか、誰にドリンクが付いてくるのかわからなくなったのだ。
スタッフを交えて、混乱し始めた。
空転する国会のように。
やんや、やんや収集がつかなくなった。
その混乱の時間が20分はあったろうか。
その間に、出来上がっていたのであろう我々のハンバーグやエビフライやパスタは、厨房内に放置されたままになったに違いないのだ。
金曜の夜だと言うのに、いつもテーブルの間をからくり人形のように動き回る店長がいなかった。
店長がいれば、
出来上がった料理を長く放置することもなかったのだろう。
作り直された、フィットチーネは美味しかったようだ。
考えてみれば、フィットチーネもガーリックトーストとドリンクをセットにして約2000円だ。
会計はトータルで5500円に及んだ。
金額を考えても、冷えた料理で我慢するなんぞおかしな話だ。
再び、テーブルに運ばれたハンバーグは、やはりいつものようにジュージューはしていなかった。
電子レンジでチンをしただけかもしれないな。
良人も、冷えた料理が提供された理由はわかっていたはずだ。
けれど、その理由で、他の客に粗末な料理を提供すると言うのは、違うだろうと思ったに違いない。
がっかりだった料理よりも、初めて見て、聞いた良人のクレームが心に残る夜でした。
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