夜はすこぶる寒かった。
風でコートが翻るたび、
矢のような冷気がセーターの網目を抜けて肌を刺してきた。
そんな寒い夜でも、
カフェの隣のキャップを被った兄ちゃんは、
バケツのように大きな銅製のマグカップにたっぷり入ったアイスコーヒーを飲んでいた。
しばらくすると、お兄ちゃんが出て行き、その隣のテーブルに2人の男女が向かい合って座った。
20代の後半であろう男女は、座るなり女性が男性にプレゼントを渡した。
男が「開けていい?」と尋ねた。
女が、微笑んで頷いた。
男をよく見ると、いわゆるイケメンだった。
プレゼントの袋の中には箱に入った小さなマスコットが入っているようだった。
「嬉しいな!有難う。」と笑顔の男の言葉が、嘘か本当かわからなかった。
女が、マスコットの色について話し始めた。
女の横顔は、男の彫りの深い顔とは対照的にぺちゃんこだった。
女は、細身の身体に、セミロングの髪を下ろしていた。
共に医者かもしれない。
会話の中に、「患者」と言う言葉があったし、手術着の脱ぎにくさの話しもしていた。
女が「付き合っている人いないの?」と尋ねると、
男は「彼女いないよ。」とさらっと答える。
そして2人は、多摩の立川の話を始めた。
男は立川に詳しく、女は、立川に住み始めて間もないのか、
飲食店のことをあれこれ尋ね続けていた。
女は、声が弾んでいた。
男も、丁寧にあれこれ説明するけれど、心のうちはわからない。
カフェがクローズの時間に近づいても、2人の話は途切れない。
私が、帰ろうとしたとき、男は、思いもよらない行動に出た。
スマホで女の顔の写真を撮り始めたのだ。
正面、左、右の横顔と、また正面。
女は言われるがまま、横を向いたり前を向いたりする。
女が笑ったら、タイルのように真四角な大きな白い前歯が出た。
美人とは言えない女だったけれど、優しそうな女だった。
私が、男だったら女を何と言って褒めるだろうかと考えた。
そう、考えなければ、すぐには良さが見つからないと言うような、女なのだ。
「優しい君に癒されるんだ。」と言うのかもしれない。
閉店の時間になって、2人はカフェを出た。
後ろ姿、2人の距離は1メートル近くあった。
果たして2人はクリスマスを共に過ごすだろうか。
今日の東京は、最高気温11度、最低気温2度、晴れの予報です。
寒い1日となりそうです。
マフラーをお忘れなくどうぞ。
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