その後、思い切って目黒川のイルミネーションの見物に出かけたのだ。ドラキュラにとっての今年最後の一大イベントになるかもしれない。
覚悟の上とは言え、人、人、ひとだ。
昨夜配備された警備員数は34名だそうだ。この写真を撮影していた時は、まだ見物客気分だった。ところが、この後、とんでもないことが起きて、警備員の正確な数字を知るに至ったのだ。
頭の中をいろいろな思いが駆け巡った。また年明け早々手袋を買い求めてさまようのか?手袋を片方失くすのは小学6年生以来だ。あの時の手袋と今の手袋とどちらがよりお気に入りだったか?小学生の時の方だな。おニューのそれは、多くの人に踏まれて、ぐちゃぐちゃかもしれない。犬のおしっこや人の痰がかかっているかもしれない。
普通の人は、この雑踏に黒い手袋を探したりはしないだろう。
しかーし、断捨離ができない、物への執着心が異常なドラキュラは、諦められない。物への執着心が異常なのか、そもそも異常な人間なのか。そうだ人間それ自体異常だ。それでいい。
これまで、イルミネーションを見上げて進んだ歩みはついに、雑踏に逆らって、下を向いて歩み始めた。無謀だ。黒いつば広の帽子を被っているドラキュラだ。多くの人々の大ヒンシュクをかった。
ほっとしたのは、美しいイルミネーションを見せようとする親心を裏切るように懸命に道を見つめて歩く犬たちに会った時だ。
私は思わず、残った片方の手袋の匂いをかがせようとした。彼らなら、なんとか手袋を探してくれるかもしれない。しかし、あまりの人間の多さに疲れてベロを出してしまっていて動かない。途中で女性の警備員さんに実行委員会の連絡先を聞き、とりあえず、手袋が届けられたら連絡をもらうようにした。スタート地点まで戻ったけれど、なかった。
それでも諦めがつかず、また流れに沿ってイルミネーションには目もくれず、ひたすら下を向いて歩き続けた。やはりなかった。
最後に交番に寄って帰ろうと、また別の警備員さんに一番近い交番を尋ねた。すると別の警備員さんが交番の場所を説明してくれて、話が終わろうとした時、黒い手袋ですか?と聞かれたのだ。丁度、黒い手袋を拾ったと、他の警備員から無線連絡が入っている言うのだ。拾われたのは、スタート地点に近い橋の上だった。拾ってくれたのは若い警備員さんだった。手袋はおニューのそれらしく、綺麗なままだった。こんな奇跡的な事が起こるんだなと。警備員さんに深く感謝した。その時、今夜の警備員の数を尋ねたのだった。
おニューの手袋が無事に見つかって、有頂天になった私は、バスに乗って着いた先の駅の駅ビルのお寿司屋さんに入った。駅ビルのお寿司屋さんは、高くないだろうと高を括って入ったのだが、いやいや、10貫3240円で、まいりました。
上を向いて歩くこと約1時間、下を向いて歩く事1時間半でへとへとで、どしっと座ってしまい、たかだか10貫の小さな小さな握り寿しはわずか10分でお腹の底に沈みました。ちなみに、シャリは赤酢のご飯で、色が薄茶色でした。
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