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2016年10月22日土曜日

無口という病気9

置地廣場 お弁当箱

共に暮らす良人は無口という病気です。
自らの趣味についても語ることはないけれど、
アンプにはこだわりがあるようだ。
良人が嫌々嫁いできたとき、
こだわりのアンプが次々と運び込まれて、
部屋は一気に狭くなった。
ギョロ目の老人の顔が表紙の本も、多数持ち込まれた。
長岡鉄男という人らしい。
半年以上前に、またどこぞのメーカーからアンプを購入したようで、小さなそれは、最初から不備があったみたいだ。
これまた詳しく語らなかったけれど、
良人は、メーカーにメールでその内容を伝えたようだ。
電話で話す、ということは到底できないのだから。
私に放った言葉といえば「宅配業者が、引き取りに来るから送って。」だけだ。
 着払いの宅配便かと尋ねると、そうではないと言う。
??依頼主はあくまでもメーカーだと。
そして、こちらがメーカーに指定した日時に、宅配業者がやって来た。
初めての手続きで、不安があった。メーカーは九州だったし。
インターホンが鳴ったとき、「来た!」 と言うと、
おデブの良人もよっこらしょと、珍しく腰を上げた。
自分の物だから、自分でやるのだなと思った。
問題のアンプは既に玄関に置いてあった。
しかし、ドアを開けて、後ろを振り向くと、
居るはずの良人がいないのだ。
「ちょっと!私にはわからないわよ!」と呼び込むように叫んでも、返事もない。
宅配業者によくわからないものでと言うと、用紙にサインをすればいいのだと言われた。
サインをして、もう一度ふり返って見ると、
良人は、柱の影に隠れるように、
コーナーの壁から大きな顔の十分の一程度を出してこちらを覗いていた。
その表情は、気のせいかニッとしていたように見えた。
最近、良人の山積みの本の一番上に、伊藤喜多男と言う人の「もみくちゃ人生」という本を発見した。
食いしん坊の私は、銀座のグルメ本かと思って読み進んだら、そうではなかったけれど、これは面白かった。
伊藤先生と言われる、これまたアンプの神様みたいな人物らしいけれど、アンプの話は読み飛ばした。
良人との会話は、永遠に実現しないのかもしれない。



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