夕方帰宅した無口という病気の良人は、玄関に入るなり倒れ込んだ。
口から血を流してはいなかったけれど、
阿婆擦れ女にノックアウトされたのだ。
「ワン、ツー、スリー、・・・テン!」
起き上がれずに、またしてもそのまま寝込んでしまった。
大方、そんなことになるだろうと予想はしていてけれど、
昼間出かけることができないドラキュラに代わって、
用を足してきてくれたのだから責めるわけにも行かなかった。
リングに上がる前に言い聞かせた。
セコンドのように。
「いいか、言葉で攻撃することはできないのだから、完全無視と、得意技のブー攻撃でいけ!」と叱咤激励してリングに送り出した。
良人の欠点の一つに、周囲が不愉快になる嫌なだんまり、
ブーっとした態度がある。
両親にそれを注意もされることもなく、育ってしまったのだろう。
今回その欠点を武器として使うしかないと思ったのだ。
それでも阿婆擦れ女には敵わなかったのだ。
途中で何度か良人からメールが届いた。
「ブリブリ」
「ブリブリしてどっか行った。」
ブリブリすべきは良人だ。
メールを読んで、歯ぎしりして、地団駄踏んで、
昼間出られないことがどれほど悔しかったか。
昼間出られれば、阿婆擦れ女の夫が社長だという会社に乗り込んで、
「アンタラ、ヤクザかね!
凄んで、どやして、それがアンタラのやり方だと、
世間様に知ってもらうしかないね!
出て行くとこ出て行くで!
とっとと、こっちが支払った金返せ、コラっ!」
と怒鳴ることもできるのに。
良人も役目は果たしたと言える。
反撃に力添えをくれたハンバーグ屋にお礼に行った。
良人も連れて行くつもりだったけれど、阿婆擦れ女の毒気に当たって夜になっても寝込んだままだ。
それを伝えると、「ご主人も大変だったわね。」と店主。
良人は、自宅に篭るドラキュラ以上の擦れっ枯らしが
この世にいることを知ったのだ。
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