青山フラワーマーケット |
『スパルタ』
という言葉を思い出したのは二週間前の土曜の夜だった。
久しぶりとなったカフェに二人はまた座っていた。
同じ窓際の席にこの前と同じように並んでいた。
小学生の女の子とお父さんだ。
「やり直し!」
「書き直せよ!」
「分数で書け!」
女の子の、消しゴムに力を込めた手が忙しく動く。
女の子は、決して口答えはしない。
指導にくらいつこうと真剣だ。
柿色のセーターを着ていた父親と
紺色のパーカーを着ていた女の子、
二人は燃えていた。
秋は受験勉強でも山場なんだな。
育ったものだから、
とても羨ましかった。
「勉強がわからなくなったら嫌だ! 」と言ったら、
「そうしたら学校休めばいい。」と言われた。
おかげで、馬鹿が馬鹿のまま大人になってしまって、
今でも親を恨んでいる。
昨夜は、探し求めていた胡蝶蘭が手に入って、
少しばかり嬉しくもあって、二人を見ていた。
しかし、昨夜の二人は静かだった。
父親は国語の長文をずっと読んでいたかと思ったら、
次には外車のカタログを熱心に見ていた。
お嬢さんが御三家に合格したら、
さらにグレードアップした外車に買い替えようと思っているに違いない。
多くの問題用紙を後にして、トイレに行った女の子。
戻るや否や、父親であり監督でもある人の、
大きなコーヒーカップを返却口に下げに行った。
その小さな顔にかけられたメガネのレンズは、
牛乳瓶の底のように厚かった。
昨夜の入店は午後9時ギリギリだったので、熱血指導の時を既にすぎていたのかもしれない。
女の子のお片づけが終わると、二人は出て行った。
合格を祈ろう。
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