置地廣場 |
せなばならぬことも置いて
お風呂にも入らずに
昨夜は、ずっとうつらうつらしていた。
まさかコロナにかかってしまったのではないだろうな、小竹さん。
誰もがコロナにかかるリスクがあるのだから可能性はゼロではない。
いやいや少なくとも若干28歳の難病たかりの私より、おばあさんの小竹さんの方がずっとアクティブだから少なくとも私よりはコロナにかかるリスクは高いのではなかろうか。
これまで小竹さんから聞いて来た話をつなぎ合わせると、小竹さんの日々の行動はこうだ。
ほぼ毎日山手線に乗って、家族が入居した施設へ行く。
晴れの日には、車椅子を押して目黒川辺りを歩く。
そよ風を受ける家族は目を細めて、 気持ち良さそうにすると小竹さんは言った。
その後、再び山手線に乗って日本橋へ行く。その時、有楽町からバスで日本橋 へ向かうと交通費が節約できるのだと言っていた。
2週間に一度は、渋谷に行って、109の先にある美容室で髪を染めている。
夜になって戻って来て、スーパーマーケットへ行く。
4月に入ってからは、山手線の利用客の数もぐっと減ったであろうけれど、小竹さんを見かけなくなった2月、3月はまだ山手線は混んでいただろうと思う。
それとも生活のパターンを変えたのだろうか。
3月にはおそらく入居者をコロナから守るため施設が家族の面会も禁止したであろうから、施設で半日過ごすようなことがなくなったはずだ。
そして日本橋界隈の百貨店も営業を自粛していたから、日本橋巡りもできなくなって、昼間のうちにスーパーマーケットに行っているのだろうか。
けれど、私には夜のスーパーマーケットの惣菜売り場で値引きの品を獲物を狙うがごとく狙い続けていた小竹さんが、おいそれと昼間の正価の値段で買うような真似はしないだろうと思うのだ。
小竹さんは、自炊は全くしないようだった。
値引きされたチコリーをよく買っていたから、野菜を洗って食べるぐらいはしているようだけれど、卵焼き一つ作らないふうだった。
そして小竹さんはかなりの倹約家であった。倹約家と言うより、そうしなければ暮らして行けないのが、多くのお年寄りの実情なのだろう。私はその姿になんとなく将来を思う気持ちが暗くなって、少し距離を置いてしまったのかもしれなかった。
夜、二人で庄やで食事をした時、美味しかったと言った小竹さんに、私と店長とで、「小竹さんはドラキュラではないのだから、ランチに来ればいいではないか」と促した。
ところがランチの値段を聞いた小竹さんは、うんともすんとも言わなかった。
更に、小竹さんから聞いた話を矧ぎ合わせると、朝は300円でお釣りがくるモーニング、それはトーストとゆで卵とコーヒーぐらいのもので、ランチは、夜にはパブになるお店でパンとスープで500円、夕食は、スーパーマーケットか駅ビルの惣菜売り場の値引きのお弁当かお惣菜とご飯が400円程度だ。
1日の食費を1200円以内で抑えていることに私は気がついた。
調子の悪い日は、外出せずに、ヤマザキのランチパックの小倉&マーガリンをトーストするのが朝食だとも言っていた。
値引きされた小倉&マーガリンのランチパックが、小竹さんのスーパーマーケットのカゴの中には度々入っていた。
ランチパックの価格を改めて調べると135円だから値引きされて98円とかになるのかもしれない。
やはり、夜のスーパーマーケットに小竹さんがいないと言うのは、何かあったのではなかろうか。
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