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2018年1月5日金曜日

28歳でいるために



 自由が丘のエクセルシオールカフェに入った。
自由が丘まで行って、どこにでもあるエクセルシオールかと言うなかれ。
深夜だ。
夜10時半を回って、ドラキュラを入れてくれるカフェは、滅多にない。
一昨年前から始まった飲食店の営業時間短縮の波がドラキュラを直撃しているのだ。


自由が丘での目的は、美容室だった。
夜でも快く、ドラキュラを受け入れてくれる美容室が自由が丘にあるのだ。
真夜中に、灯りを抑えてくれて、28歳らしく髪を作り上げてくれる美容室だ。
髪が竹箒のようになった年の瀬に予約していたけれど、体調を壊してドタキャンしてしまっていた。
今夜のために、3日はだらりんと過ごして、体調を万全に運んだ。


仕上がりは上々、
気分も上々、
何なら成人式にも出陣しようかと言う感じだ。
若返った私は、賑わうカフェで若い女の隣に座った。
グリーンのセーターに長いロング丈のボヘミアン調のスカートを履いている。
スカートのビビットなピンクの横縞がスパイス色になった美しいスカートだった。
ソーサーのない、甚だ不本意なマグカップで、コーヒーを一口飲んでから、
アップルパイを食べると、意外にも国産リンゴがぎっしりと詰まっていた。


アップルパイの多くは上げ底だ。
りんごがサンドイッチのきゅうりみたいに、ぺらぺらのが一枚ずつ敷き詰められて、あとはスポンジと言うアップルパイだ。
エクセルシオールのは、結構誠実にりんごが入っていた。
アップルパイに満足して、気になる隣の若い女を見た。
スマホをいじっている若い女の横顔をまじまじと見た。
さあ、妄想の始まりだ!
なぜこんな夜更けにカフェに居るのか。
仕事始めだったのか?まだ学生か?
けれど、踊り始めた心は、一瞬にしてしぼんだ。
若い女は、若くなかったのだ。
アップルパイには、裏切られなかったので良しとしてカフェを出た。
帰途、電車は難なく座れた。
ふと、隣を見ると、黒いファーを首に巻き、たっぷりとまつ毛につけたマスカラが、タランチュラの脚のように太く、相撲協会評議委員会議長に似た老女だった。
改札口への階段を、
私はえっちらおっちらと「高齢社会」を踏みしめるように上った。

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