飯田商事 |
夜の異空間を求めて、
都会のカフェに足を運んだ。
重い扉の向こう側、
仕事帰りの人々が、
席を埋めていた。
吸い寄せられるように、
入口近くの椅子にかけている女性の隣に、
席を取った。
とうきゅうフローラ |
女性は、文庫本を片手に、やや身体を屈めていた。
女性の控えめに組んだ足の足先が、
私に当たるかと思ったとき、
女性は静かに足を下ろした。
ベージュのパンツに、
ベージュの丈の長いカーディガンを合わせている。
艶やかな長い栗色の髪の毛先がゆるくうねって、
カーディガンに甘えるように下りていた。
まるでファッション誌をめくったような画像だ。
30代半ばに見えるけれど、
40歳を超えているのかもしれない。
艶やかだったから。
整った顔は、ナチュラルメイクで、
ファションも髪型も全てがさりげなかった。
長い髪の女性の反対側テーブルを見ると、
仕事帰りであろう4人の女性たちが向かいあって賑やかに、会話を楽しんでいた。
青山フラワーマーケット |
4人は、ベージュの女性より若かった。
4人が4人とも、バッグから靴まで、気を使っている感じが初々しかった。
私は、オーダーしたババを貪るように食べて、
唇についたババのシロップを、
拭おうとする自分が田舎者で、
カフェの空気に馴染んでいない気がした。
そんなことを考えていると、
ベージュの女が、席を立って出て行ってしまった。
椅子を引く音も、荷物をまとめる音も、
カフェの空気に消えて、
風のように行ってしまった。
すぐさま、
次の女が椅子を引いた。
ダークグレーのスリムなスーツに
黒いブラウスを合わせていた。
さっとジャケットを椅子にかけると、
ハードワークでお腹が減っていたのだろうか。
バニーニにかぶりついた。
ショートヘアのその女には、
女らしさがなかったけれど、自信に満ちた強さがあって
凛として美しかった。
日比谷花壇 |
再び4人の女性の方に目をやると、
帰り支度を始めていて、
ガヤガヤとカフェを出て行ってしまった。
都会のカフェは、並ぶスイーツもどことなくおしゃれだ。
4人の女たちの後には、
長い黒髪の、
しっとりした女が、
静かに椅子に腰をかけた。
都会の夜のカフェは
七変化。
紫陽花の如し。
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