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2017年6月3日土曜日

22時、金曜日のファミレス



デブの隣に座った。
デブ専だから。
既にとんかつを食べた夜だった。
私の食欲は行くあてもなく、また暴走し始めている。
カシスソルベだけと心に誓って入店したジョナサン。
大きな蜂蜜の瓶に
持ち手を付けたようなグラスに
マンゴースムージーが、
デブに運ばれてきた。
クリーム色のそれは、400ミリはあるであろう大容量だ。
デブは、ズーいズーイとあっという間に飲み干してしまった。
デブは、出張の帰りか、
ノーネクタイのクールビス姿の脇に
人の半身ほどの大きなバッグを置いていた。
スムージーの前に何かガッツリしたものを食べたに違いない。
スムージーは食後のお楽しみだと推察した。
デブとは、そういうものだ。
優しそうな顔のデブは、
私がチラチラ見ても、嫌な顔はしなかった。
しかし、巨大な瓶のようなグラスの底に何もなくなったことを確かめると、伝票を持って出て行ってしまった。
デブが出て行くと、
デブの隣の席にいた女二人も席を立った。
一人の深緑の洋服を着た女が、立ち上がるとかなりビッグだった。
眼前に山が迫って来た感じだった。
対して、連れの女は針のように細かった。
棒ではなく針にように見えたのは、ビッグな女と比べたからだろうか。
女二人の後には、
直ぐにカップルが案内されてきた。
25、6の女と34、5歳の男だ。
男が女に食べたいものを聞いて、注文していた。
大して美人でもなく、ブスでもなく、
おしゃれでもないけれど、ダサくもなく、
そこそこモテるタイプかもしれない女だった。
女の前に赤いサングリアが置かれた。
グラスの縁に黄色いレモンが刺してあって、赤と黄色がとても綺麗だった。
二人の間には大きなピザが置かれた。
女は、すぐさまサングリアのおかわりを注文した。
男は常に女を気遣っていた。
女は、お構えなしに、飲みたいものを飲んで、
食いたいものをただ食っているだけに見えた。


ふと気がつくと、
向こうのテーブルに常連のメガネ女が座っていた。
ナイフを動かして、
せっせと口に運んでいる。
ははーん、今夜はハンバーグだな。
メガネ女と私は、何度となく同じ時を
ファミレスという同じ空間で過ごしている。
時に隣になることもあるけれど、
大抵は向かいの離れたテーブルだ。
そして、私はシーズンメニューの食事を選ぶけれど、
メガネ女は、定番メニューを選んでいる。
共通項は、大食でデブということだ。
メガネ女も必ず何品か食べているのだ。
大食いがデブというのは自然なことだ。
隣のデブ男の後には、
痩せ女が既に席についている。
慣れた様子でオーダーしていると思ったら、
大きなアメリカ産のビーフステーキを、
ギコギコとナイフで切りながら、パクパク食べていた。
大食なのに痩せか、と考えていると、
メガネ女の隣の長く居たカップルが出て行った。
金曜の22時のファミレスは、
高速道路のパーキングエリアのように
人が目まぐるしく入れ替わる。
 幕が下りることのない劇場を後にすべく、
立ち上がると、
メガネ女の前には、
ハンバーグの皿の他にもう一枚の大きな皿があった。
海の浅瀬のように汁だけが静かに残っていた。
ハンバーグの他に一体何を食べたのだろう、メガネ女。
扉を出ると、
若い頃、黒い網タイツで踊るダンサーだったという感じの60代半ばの常連女が入って行った。


ジョナサンのトイレに、待望のピュアレットがつきました。
50回ぐらいかしら、
アンケートに要望を書いた甲斐がありました。


2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

あんこさんの深夜の人間観測。とても味があります。
もっと、もっと想像を逞しくして、人間を掘り下げて下さい。

あんこちゃん さんのコメント...

匿名さん 
コメントありがとうございます。
次回は掘り下げて、
ありえそうなこと妄想して綴りますね。