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2017年6月21日水曜日

ちょいクレーマー



「この帽子に心当たりはありませんか?」
「・・・」
「つ、妻のではないかと。」
「昨夜のこと、少しお話していただけませんか?」


「昨夜、外で一緒に食事をしました。一旦は、お店を出たのですが・・・」と刑事に答える良人。


定期券を購入したものの会社に行かない良人の機嫌を取るべく、
良人が好きな無国籍のレストランに行った。
「久しぶりですねぇ〜」と片言の日本語でオーナーに迎えられた。
広いフロアーに客の姿はなく、
整然と並んだいくつものテーブルの上には、
白い大皿が貼りついたように載っていた。
「さっきまでパーティーでした。」とオーナーは言った。
しかし、その言葉を疑った。
店内にスタッフの姿もなく、
怖いくらい静まり返っていたから。
以前よりぐっとメニューが減っていて、
目当てのものもなくなっていた。
出来上がった料理は、オーナーが運んで来る。
オーナーに以前のような愛想はない。
挙句に最後までお水も出てこなかった。
早々に会計を済ませると、
料金が想定外の高さだった。
メニュー表に料金は書かれているけれど、
素直にそれを足した金額ではなかったのだ。
以前からレシートなるものをもらったことがないので、
サービス料なのか何なのかわからない。
不承不承支払った。
「また、よろしくお願いしま〜す。」というオーナーの片言の日本語が癇に障った。


  心地良く食事ができなかった上に、
料金も高いことの腹立ちが、どうにも収まらない。
「私、お店に戻って、内訳を聞いて来るわ!」と言うと、
無口という病気の良人は、くるりと後ろを向いて何も言わずに
帰って行った。


独りレストランに戻って、
重いドアを開けると、
ドアの上についた呼び鈴が
「カラーン」と音を立てた。
けれど、中からは誰も出てこない。
入口のレジの脇に伝票が刺してあった。
「これだ!」
私たちの食事の伝票を見つけた。
ゲコ二人なのでお酒は飲んでいないけれど、
お通し代なのか、余分な千円が計上されていた。
近くにあった電卓を叩くと、
消費税が思いっきり丸められて切り上げられていた。
でもそれだけと言えばそれだけだ。
と、その時、
「何をしているんだ。」
低い声に、
顔を上げると、オーナーが柱の影から姿を現した。
 「あっ、っ、」
説明をしようとした時、終わった。
「いたっ〜い」
遺体は切り刻まれて、シチューになった。
走る車の窓から、帽子は投げ捨てられて、
「ちょいクレーマーは、うぜぇんだよぉー」と、
オーナーの泣き声にも似た声が夜明けの街に響いた。

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