ドラキュラは、
辛い季節を迎えた。
太陽の光が夜の7時でも街に降りて、
夜中の3時半には、
再び街の空気に忍び込んでくるものだから。
午前0時を回るとき、
何度も自問自答する。
それでも行くのか。
朝日が突き刺さる時刻は早い。
それでも行くのか。
昼間の通院は、
夜の爆睡をもたらした。
気がつけば、草木も眠る丑三つ時だ。
行くのか。
止めるのか。
正味一時間居られるかどうかだ。
あれこれと食い散らかすことはできない。
それでも行くのか。
決断した。
通院のストレスを払拭したくて、思い切って出かけた。
この2ヶ月ばかりは、0時を回ってから、ジョナサンに行くことはなくなった。
時間を気にしては、寛ぐことができないから。
今宵は一本勝負だ。
マグロとアボガドのサラダごはん。
マグロとアボガドは言わずと知れたコンビだ。
レタスを外してもらっても、なお美しいお皿に見とれて、
夜中の常連女に気がつかなかった。
少し先に、常連女がいた。
冬の間、毎日黒いセーターを着ていた常連女は、
夏も黒かった。
時に電車の始発時刻まで居る黒い女は、
真夜中の女なので、夜の早い時間に足を運ぶようになってからは、あまり見ることがなかった。
黒いけれど、
影のない健康的な感じの中年女だ。
看護師長と勝手に名付けている。
実際は、看護副師長かと推察している。
看護師長には珍しく連れがいるのか、女と喋っている。
衝立で、連れの女は見られない。
二人の会話を聞いている暇はない。
食べて、飲んだら即刻退散だ。
「男に自信もたせちゃダメよ。」
師長が言った。
どうやら人生の重苦しい話をしているようだ。
通院で疲れた身体と心には、薬にもならない話だ。
時刻も気になって、話は染み入って来ない。
「明日は、ここは掃除でお休みよ。」という師長の言葉だけが、
心に響いた。
傘をさして歩いた夜道の先に、
清掃のため休業の札が立っていたことがある。
月夜の晩だったこともある。
その時のドラキュラの落胆がどんなものであったか。
熟女二人の会話から、今夜はそれを味わわずに済んだ。
熟女二人。
そう、連れの女だと思われた会話の相手は、
もう一人の別の常連女だった。
若い頃、黒の網タイツを履いて踊っていたふうな、
元ダンサーという感じの。
元ダンサーは、想像どおり、東北訛りだった。
元ダンサーだったかどうかはわからない。
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