日本海庄や |
良人は老いた。
私は、私が 死んだ後、良人が人知れずミイラになることが心配だと言った。
すると無口という病気の良人が珍しく
「直ぐに再婚するから大丈夫」と言葉を発した。
ところがそう言った直後に、良人は左の胸を抑えてうずくまってしまったのだ。
その後立ち上がったけれど、良人は確実に老いている。
だいたい10年前は、浴槽の掃除もしてくれた。
私の体調が優れず、1週間もお風呂のお水を取り替えていない。
私は、 こんな折に膀胱炎になるのが嫌で昨日は入浴を止めた。
良人は祝日も出勤で、年休も年初に消化してしまっていることも災いしているのだろう。
そんな良人に今朝届いたのは、永年勤続の慰労のお花だった。
それで、慰労会を開催することにした。
戻り鰹のたたき |
私は、慰労会の前、真っ暗になった夜の7時を過ぎてからシャンプーを買いに一度外に出た。
夜道を行く私は、歩けなかった10年前を思い出した。
良人が、私に代わって駅の向こう側の薬局まで行って、化粧品やシャンプーを買ってきてくれていたことを。
良人の再婚のハードルは極めて高い。
喋れないのだから。
いきなり婚姻届を意中の女性に出したところで、引かれるだけだ。
そんな良人から突然メールが届いた。
「同窓会の電話があった」と記してあった。
私は、ギョッとした。
良人は絶対に電話に出ないのに、どうして出たのだろうか?
一体どう応対したのだろう?
良人は、同窓会の出欠を言付かったか?
まさか、相手の連絡先まで聞き出すということまではできないであろうと。
やきもきしながら急いで帰宅すると、相手の電話番号が記してあった。
おかげで無事に、かつての同級生と電話で話をすることができた。
江戸焼き味噌がゆ |
さて、慰労会と言っても、
いつもの日本海庄やだ。
下戸同士は、日本海庄やをご飯屋さんにしている。
良人は、秋になると 「この家は松茸が出てこない。」とぼそっとつぶやく。
私は、心の中で赤松の山を持ってないからね、とつぶやきながら毎年それを聞き流してきた。
なのでこの度は、良人の慰労に鱧と松茸の天ぷらを注文した。
秋刀魚のお刺身 |
食事をしながら、「お疲れ様でした」と私は言った。
すると良人は「電話に出ちゃったから凄く疲れた。」と答えた。
「何回も鳴るから、馬鹿(=あんこ)だと思って出たんだけど。」と続けた。
私の発した、「お疲れ様」は、勤続のお疲れ様のつもりだった。
日本海庄やは、ただ今江戸時代料理フェア開催中です。
江戸焼き味噌がゆは、お味噌の塩分を心配しましたが、
お味噌の塩味は感じられないまろやかないいお味でした。
戻り鰹は絶品で、今が旬の秋刀魚のお刺身もとても美味しかったです。
この連休は、お近くの日本海庄やへどうぞ。
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