共に暮らす良人は、無口という病気です。
「おはよう」も「こんにちは」も言いません。
狭い家の中で、何を問いかけても返事もありません。
メールをすると、およそ五割の確率で返信が来ます。
なので、意思疎通は狭い家の中でメールか、
もっぱら顔色を伺って、思うところを汲み取るしかありません。
このたび、熱を出して、
普段は大食漢の私が、食べ物を食せない事態となりました。
「タリーズの冷たいロイヤルミルクティーが飲みたい。」と言ったところ、良人は身支度を始めました。
私は、小さな紙に、ロイヤルミルクティーのアイス、サイズTと書いて良人に渡しました。
それは、良人が忘れないようにということではなく、
良人が、タリーズのスタッフに 何も言わなくても済むように、
スタッフに見せるためのものでした。
良人は、一日二回、一週間にわたりせっせとタリーズに通ってくれました。
大分回復して来た時、
良人は突如「ヨドバシに行く。」と一言だけ言って川崎に行ったようでした。
帰宅後にテーブルに置かれた包みを開けると、ぷるんぷるんのおっぱいが並んでいた。
大きなお餅か?と思ったら、それはおまんじゅうでした。
この手のひらほどの大きなお饅頭は川崎の名産品に指定されている多摩川菓子店の追分まんじゅうだったのです。
「グルテンフリーをしているのに、なんでお饅頭なの!違うだろう。」と私は文句を垂れました。
「食わない!」とまで言ったものの、ぷるんぷるんがどうにも気になって、深夜にこっそり半分食べてみました。
ぷるんぷるんの皮は実は非常に薄くて、中のあんこがぎっしり、実に美味かった。あんこの甘さがかなり控え目だ。そして国産材料にこだわって120円という値段だ。
鶴見線浜川崎駅にあるお店で、川崎駅からは相当歩くようだ。だいたい昼間には売り切れてしまうらしいから、私が買いに行くことは永遠にできないのだ。
良人撮影、メールに添付されてきたもの |
「また食べたいなぁ〜」と独り言のように呟いてみた。
すると、無口な良人が口を開いた。
「あそこまで言われて、絶対に行きません。」
普段食べる時以外開くことがない口が開いたのだから、
相当頭にきたのだろう。
断腸の思いで言葉を発して、買ってきてくれたことに、
私は、感謝が足らなかった。
良人にお世話をかけたことのお礼に、曙のざらめ甘辛せんべいを買った。
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