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2020年1月21日火曜日

真夜中のファミレス最終回



水色の紫陽花のような女性スタッフの 薄い唇が、
さよならと動いたように見えた。
私は崩れそうになった。
ついにすかいらーくも展開する全店舗で深夜営業を止めることを発表した。
段階的に止めるという一行に、情けを感じて、冷たい風を頬に受けて夜道を歩んだ。
せめて、丑三つ時までは営業して欲しい。
夜風が冷たい間は、深夜営業を続けて欲しい。
それはドラキュラの切なる思いだった。
しかし、ドラキュラにとって残酷な宣告となった。
営業は0時まで、ラストオーダーは23時半まで。
実施は2月1日からだと言う。


これが、ドラキュラにとって真夜中最後の晩餐になるだろう。
奮発して、ジョナサンの季節メニューの海鮮丼膳にした。


酷い宣告とは裏腹に、付いてきた小鉢は優しい味だった。
思わず眼が涙で滲んだ。
真夜中のファミレスには、いつもドラマがあった
元ダンサーだったであろう女いつも黒い服を着ている女、
残業で帰宅できなくなって始発電車を待ちながらご飯をかき込む男、ハンバーグとグリルソーセージを食べて、ジョッキに入ったスムージーを豪快に飲み干す百貫デブ、
みんなみんな今では愛おしい真夜中を生きる仲間だったのだ。


1時を回って、黒いニットの帽子をピタリと被った女が入ってきた。女は、コンセントを使いたいからと、前の客のグラスを片付けて欲しいと言って、テーブルを拭くスタッフに「すみません。」と言っていた。
細い身体の女は楚々として、30代だろうと思っていた。
悲しさと、悔しさと、前途の不安で、わーっとなった私は、女には見向きもせずに、ひたすらに食らった。
食べ終わって、椅子の背もたれに力なく寄りかかった時、
改めて、二つ離れた席に座る女を見た。
サングラスを外して、メガネをかけてよくよく女を見ると、
黒いニット帽に抑えられた髪が肩まであって、俳優の天本英世さんにそっくりな女で、私はギョッとなった。
背筋は伸びてキリリとしていたけれど、結構な歳の女で、色黒の肌にシワがくっきり刻まれていた。
オニオングラタンスープを啜っていた。
不気味な女は、ドラキュラの真夜中最後の晩餐にはふさわしい仲間にも思えてきた。


 帰途、丑三つ時の深い闇の上の方で、
カーカーカーと烏の鳴く声が響いた。
行き場を失くしたドラキュラは、烏に行き先を尋ねてみたかった。
今日の東京の最高気温は11度、最低気温は4度、晴れの予報です。
今日も当ブログにご来訪いただきまして有難うございました。

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