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2020年1月23日木曜日

真夜中のファミレス最終回の2



どうしてだ、どうしてだ、どうしてだと5時間も考えているうちには、
どうしてだ、どうしてだ、どうしてだが呪文のようになっていって
やがて眠ってしまった。
一昨夜のこと。
目が覚めたら、日付が変わっていた。
もう21時間も窓を潰した部屋に篭っていることになる。
とにかく外に出よう、これでは精神も蝕まれていくだろう。
まだ、ファミレスは営業していた。
深夜営業は残すところあと一週間、言わばラストランだ。
血液検査の結果がさらに悪くなっていた。
悪化は一昨年前の秋からで、その時はこの夏の酷暑による疲労からではないかと医師から言われた。
けれどその後もどんどん悪くなる一方で、昨年の6月から加速度がついたように歯止めなく悪化している。


行けるうちに行こうじゃないか。
真夜中に、深い闇の底に突き落とされても、
まだかろうじて掬い上げてくれる所があるのだから。
ファミレスの店内は、月曜の深夜より人がいた。
私の指定席には、見慣れないお姉さんが一人座っていた。
さらにその先、二つテーブルを挟んで、またお姉さんがいた。
私もお姉さんたちと同じ空間で同じ空気を吸いたかったけれど、照明が許してくれなかった。
仕方なく衝立の向こう側のドラキュラに安全な席に着いた。
私の並びに、二つテーブルを挟んで、残業の果て、始発を待っているのであろう若い男がテーブルに突っ伏していた。
北海道産インカのめざめ4種チーズのカルボナーラ風ディップ

 注文を取りに来てくれたのは、最近髪をバッサリ切った色白の若い女性スタッフだった。
出来上がった北海道産インカのめざめ4種チーズのカルボナーラ風ディプを熱いから気をつけてと言ってテーブルに置いてくれたのは、男子大学生だ。女性スタッフにはかれこれ3年、男子大学生には4年お世話になっている。
男子大学生は最初の頃に、母親が訪ねて来た。 
テーブルの向こうに座っていた小柄な女性の顔が、男子大学生と瓜二つだったので、私は直ぐに親だとわかった。
母親は、静かに食事をすませた後、テーブルを立って、深夜働く他のスタッフに「ご迷惑をおかけするのではないかと。よろしくお願いします。」と言って頭を下げて帰って行った。


 熱々のインカのめざめは、サツマイモより、栗より甘かった。
それだけでも美味しかったけれど、カルボナーラ風のディップに絡ませて食べると、とろけそうになるほど美味しかった。
美味しさと、半分ヤケになったような気持ちもあって、インカのめざめをさらに注文した。


 満月の夜も、月なき夜も、
どんなに落ち込んでも、もう、私が座ることができる椅子はないのだ。
カルボナーラ風ディップの上に浮かんだ、満月にそんな恨み節を呟いた。


真夜中に、ただひたすらに、落ちてゆくだけになるのだ。
二皿目のインカのめざめを食べながら、自宅からぶら下げて来た新聞を広げた。
皮肉にも、すかいらーく24時間全廃の文字が踊っていた。


私は一人苦笑した。
間も無く私服姿のスタッフ、男子大学生が通る姿が目に止まった。
「お疲れ様」と声をかけた私に、彼はあっと言って微笑んだ。
店内には、テイクアウトのピザやハンバーグを置いたまま、
食事してドリンクを飲み続ける女がいた。
男性客も二人ばかり入って来た。常連のおじいさんも知らぬ間に座っていた。
「ねえ、みんな、知ってるの?もうここは深夜に営業しないのよ!みんなどうするのさぁ。」
ドラキュラである私は、一人、一人のテーブルを叩いて言って回りたい気持ちになった。


インカのめざめは、美味しかった。
ドラキュラがめざめて、 行く先はなくなる。
何年かのちに、昔むかし、ファミレスが夜中に営業していたことがあったと語られるのだろうか。
それは、闇夜に煌々と輝くファミレスが幻の不夜城ごとくに。
今日の東京の最高気温は7度、最低気温は4度、雨時々曇りです。
寒い日となりそうです。皆様も風邪等にお気をつけてマスクをお忘れなくどうぞ。

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