置地廣場 |
月明かりの下で、
小竹さんは、値切って買った餃子をあげると私に言った。
私は二度ばかり断ったけれど、今夜の小竹さんは、引かない感じがあって、私はそれを受け取った。
しばらくぶりに出会ったことが、小竹さんには嬉しいと言うふうだったので、私は固く断るのはなんだか悪いような気がしたのだ。
それより前、同じ晩に一度はスーパーマーケットで偶然に小竹さんに出くわしていた。
小竹さんは、月初に故郷に帰ると言っていたので、しばらく東京にはいないのだろうと私は思っていた。
けれど、故郷はたった1泊ですぐに帰ってきたのだと言う。
小竹さんの故郷は北陸だ。
私は小竹さんの本当の名前を今だもって知らない。
故郷がどこかと言うのは、名前や歳や仕事などを尋ねるより、ずっと尋ねやすいものだ。
北陸が故郷だといのは、随分以前、弥生の頃に聞いたと思う。
スーパーマーケットでは、天井のLEDの灯りを避けて、小竹さんの話を聞いた。小竹さんは、小さな声で、姪御さん夫婦と帰郷したこと、甥御さんのことなど少しづつ話した。それは、水道の蛇口を少しだけひねって、糸のように細い水だけれど、絶えることなくつーっと流れ続けるようなものなのだ。
心身ともに弱り気味の私は、それを集中して聞いていることができなかった。そして、今晩は、友人に電話しておしゃべりをしてもらおうと決めていたのだ。
座敷わらしの小竹さんとドラキュラの私の夜に終わりはないけれど、世間の人には夜の途中でお終いがあるのだ。
いや、それだけでもない。先日の小竹さんとの会食の後、私の衰弱は長く尾を引いた。
私は、次のスーパーマーケットへ向かうからと言って、水道の蛇口をきゅっと左に閉めてしまったのだった。
さよならに、私が手をふると小竹さんは、空で、私の手を捕まえてぎゅっと強く握った。
私は、買い物をして、カフェでホットコーヒーを飲んだ後、明くる朝の良人の朝食の支度が負担に感じて、カフェでサンドイッチを買った。
サンドイッチをぶら下げて、お店を出ると小竹さんが通りを歩いていたのだ。
小竹さんは、ずっとスーパーマーケットに居たのだろうか。
私は、小竹さんに握られた手の感触が残っていて、再び小竹さんに出会ったことは、今夜の運命なのだろうと、下を向いて歩く小竹さんに声をかけた。
小竹さんはスーパーマーケットの中華惣菜屋の責任者に餃子の値引きを迫ったと言う。二パック買ったからとそのうちの一つを私にくれると言うのだ。
二人で並んで歩く道すがら、風が涼しくなって良かったと小竹さんは言った。
小竹さんは、暑い暑い8月の夜でも冬支度のように長袖を重ねていた。
今日の東京の最高気温は26度、最低気温は22度、曇り時々晴れの予報です。
綺麗なお月様が見えるでしょうか。
皆様も、夜空を見上げることをお忘れなくどうぞ。
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