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2019年3月21日木曜日

カフェにて



 猫には猫の縄張りがあるように、
カフェにはカフェの縄張りがあると知った夜があった。
岩合さんの猫のクリアファイルをもらうべく、
せっせと通ったカフェは、私にとっては言わばアウエイだった。


酷く咳き込むのに、
マスクもかけずに、 カフェに居続ける隣の男に、
注意をする度胸もない私は、席を立ったり座ったり、終いには、カフェをウロウロすることとなった夜があった。
それでも懲りもせず、あくる晩も猫のクリアファイル欲しさに、カフェへ行った。
コーヒーを飲み干して、さてコートを羽織って出ようかと、トレーを持った時に、ただならぬ気配を感じた。
ふと、顔を上げると、咳男が立ちはだかるように立っていたのだ。


その眼差しは、冷たいという感じを超えて
確かに私を睨みつけていた。
私は、思わず怖くなって下を向いた。
と同時に、この男はこのカフェの常連なんだなと悟った。
 咳男は、元モデルで俳優の阿部寛さんのマイナス3といった感じの男だ。結構な歳の男が、猫のクリアファイル欲しさにカフェに通い詰めているわけもなかろう。
前の晩、私は、咳男に文句こそ言わなかったけれど、あからさまに身体を避けたり、横を向いたり迷惑千万だという態度をとったのだった。
 一体どこに座っていたのか、あくる夜の咳男の、文句あるかというその態度には、「私は常連だ」という常連風が漂っていた。
その気配に私は、肩をすぼめて、おずおずとカフェを出た。


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