のほほんとカフェに行っている場合ではないのだけれど、
黒糖の効いた温かいミルク珈琲が飲みたくなった。
初めの一歩で大きくつまづいて
余計なエネルギーを消費して疲れ果ててしまった。
がらんとした店内に、ぼやっと入った。
夏には9時ギリギリの入店だ けれど、
日の入り時刻が2時間も早まるとドラキュラの生活のパターンも変わって、7時前にカフェに入ることができるのだ。
金曜の7時は、こんなに空いているものなのかなどと考えていると、一人の女が目の前を横切ってトイレに行った。
その女に見覚えあり!
赤の女だ。
これまでと違う雰囲気で、そうとわかるのに時間がかかった。
あまりに太っていたから。
相変わらず、バッグの口は開けたまま席を立っている。
戻ってきて、となりのとなりの席につこうとした時にしみじみと見た。
マスクが下がって鼻が出ていた。
よく見ると、具合も悪そうで、
太ったというよりふやけた感じだった。
赤はスカートに健在で、赤と黒の太い縞模様のニットの丈の短いフレアスカートを履いていた。
そのシマシマは、熱帯魚のカクレクマノミのようだった。
エンゼルフィッシュというよりぷっくりした金魚風だったから。
その縞模様のスカートには、黒いミンクがついたフード付きのショートコートを着ていた。
以前から歩き方はスマートとは言い難かったけれど、ズッコケタように、ひょっこひょっこと足を運んでいた。
黒いカチューシャもつけていたけれど、伸びた髪もボウボウで、
カチューシャは髪の毛に埋もれていた。
勝手にアパレル関係の仕事についていると妄想して、少々奇抜なファッションなんだと思い込んでいたけれど、
昨夜は、お笑い芸人の女だ。
席に戻ると、直ちに空のカップと紙だけのケーキ皿が載ったトレーを下げて、カフェを出て行ってしまった。
カフェで、ゆっくり赤の女を妄想していたかったけれど、
昨夜のカフェは慣れないスタッフ2人で、店内がすこぶる寒かった。
昼間は暑かったのか、エアコンから冷たい風が吹き出してくる。
店内のほんの数人の客は皆んなコートを着込んだまま、ホットコーヒーを啜っていた。
誰も何も言わない。
私にも「寒い」と言う、そんな元気はなく、赤の女のように早々に退散した。
思えば、赤の女に会ったのは7ヶ月ぶりだった。
作りあげた赤の女が崩れたような様だったけれど、
会えて良かったと今は思っている。
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