置地廣場於 |
長い夏休みを経ての出陣の日、受診機が二つだけ並ぶ病棟から入った私は、作動15分前に到着した。
どうしたことか、片方には誰も並んでいない。車椅子が一台だけ受診機の前に置いてあった。
一方には、5人並んでいるにもかかわらずだ。
こういう場合、何かがあるものだ。しかし、一刻も早く受診して太陽が昇りきらぬ間に帰宅したいドラキュラとしては、背に腹は代えられぬと、誰も並んでいない受診機の前に立った。
その日、幸いパソコン対策用の手製マスク(完全遮光の布をマスクに付けたもの)で顔を覆っていた。それで、受診機の光をプロテクトできるので、前に人がいなくても皮膚を傷めずにすむのだった。サングラスに覆面マスクの姿を自撮りして、友人にメールで送ったりして、時間をつぶしていた。「テロリスト!」なんて返信がきたりして、すっかり気をとられていると、一番のりの車椅子の人がどこから戻ったのか座っていた。メガネをかけたおばあさんだ。人懐こく、大声で話しかけてくる。
「お姉さん、アンタのこと心配してたのよ。どうしているかって。」「入院中一緒だったじゃないの。」
ほどなく受診機が作動した。老婆は診察券を差し込んでもたついている。終いには、すっくと立ち上がってガチャガチャやって、事がすむと、10キロの重さがある車椅子を難なく抱えてどこかに返しに行った。
目を疑った。
股関節にトラブルがある私なんぞは、10キロの車椅子を持ち上げることはできない。私より軽快な足取りで「どうも、どうも」と周囲の人々に言いながら立ち去った。
私は心の中でつぶやいた。
『やるな、ババア〜。しかし、全てを許そう、私のことをお姉さんと言ったから。』
熱さとの闘いの後、ようやく帰宅して、シャワーを浴びてふと思った、深い完全遮光の帽子、サングラス、覆面マスクでお姉さんとおばさんの見分けは果たして、つくのだろうか。となりの患者は、真に上手の患者だったのだ。
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