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2019年8月3日土曜日

歯医者への夜道



 じれてじれて、
梅雨が明けた東京の空は、
なかなか暮れ行かない。
太陽が沈みて後も、その残像が空に居残り続けるのだ。


歯医者への通院を再開した。
身体がずっと思わしくなくて、4ヶ月半ぶりとなった。
歯医者通いは、今月の憂鬱の一つだ。
午後7時、熱い空気の中に、
しぶとい太陽光を完璧に防ぐフル装備の防衛体制で出かけるのはあまりにしんどい。
おそらくバス停に辿り着く頃には、真っ暗になるだろう。
完全遮光のサンバリア100の黒いフリル傘をさして、パソコン用の遮光の黒いマスクを着けて、サングラスに、慰め程度ではあるけれど、UVカットのポロシャツとUVカットのパンツ、UVカットのストッキングを身につけて出かけた。
置地廣場

 案の定、バス停に着いてから空を見上げると濃紺が広がっていた。
悩ましい、大きな電光広告が衝立のようにバス停に設置されるようになってから、私は、バス停に背を向けて、離れた所でバスを待つしかなくなっていた。
 ところが、完全遮光傘が役に立って、空に向けて広げていた傘を、横に向けて、電光広告の光を防ぐことができた。
バス停の椅子に一人座るご老人にもぐっと近くなった。
オレンジ色のポロシャツを着た恰幅の良い、男性は80の少し
手前ぐらいの年齢だろうか。
夜なのに傘を広げている私を不思議そうに見ていたけれど、顔にも黒いマスクをしているものだから、しげしげと見ることはしても、理由があるに違いないと察したようで、文句もつけてはこなかった。


そこに「やあ、」と一人のご老人がやってきた。
互いに、どこに行っていたのかと尋ね合っていた。
けれど、後から来たご老人が「この方は?」と私のことを、
椅子に座るご老人に尋ねる。
すると、オレンジのポロシャツの老人が座ったまま、
「奥さんだよ。」と笑みを浮かべて答えた。
「まさか、ええっ!だってお若いじゃないのよ。」
「一体、どこで知り合ったんだい?」
尋ねる老人は、紺色の格子柄のワイシャツに、綺麗なピンクの麻のジャケットを上手に着こなしていて、白いパナマ帽を被っていた。紫のサングラスの奥の瞳は大きくて、目鼻立ちのはっきりとした顔をしていた。
「じゃあ、二人でお買い物に歩いていたのかい?」
私は、
「パパ、パパのお友達なの?、今日はパパとふたりで銀座まで映画を観に行ったのよね。なのにパパったら、途中でいびきをかいて寝ちゃって、あんことっても恥ずかしかったわ。」
「それから、お・か・い・も・の、ね!」



てなことを言えなかった。
ぺてん師と言われようとも、たった二人のご老人を存分に楽しませることができなければ、世界の皆様を楽しませるブログなんぞ書けるはずもない。
「まあ、夫がいつもお世話になっておりまして、ありがとうございます。」とマスクをとって頭を下げて言うのがせいぜいだったのだ。
すると、パナマ帽の老人は、サングラスの向こうの大きな眼をパチクリとさせた。
そして「えっ、だって相当若いじゃないのよ。」と再び言った。
私は、黒いマスクを再びつける時に、光がダメなのだとお伝えした。
この辺りのビルをいくつか持っていて、隠居の身である風情のそのご老人は、いかにも女性関係も派手であったと言う風だから、
3人で光の話をするうちには、私が、赤の他人だと悟ったようだった。



なんのことはない。
無理をして、歯医者へ向かったけれど、
夏休みとあって、子供とその保護者で歯科医院は溢れかえっていた。
難病の人の来院に、院内のライトは既に一列ばかりを消してくれていた。
私は消された灯の下で、立ったまま順番を待った。
今日の東京の最高気温は35度、最低気温は26度、晴れ時々曇りの予報です。
歯の治療は痛みもなく、あっさり終わったので、
楽しい夜道となりました。
皆様におかれましては、暑いですが楽しい週末をお過ごしください。

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