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2017年8月11日金曜日

まさかの赤の女

飯田商事

我が目を疑った。
赤の女がいたから。
赤の女をブログに記して、17時間が過ぎていた。
ブログに記すとその日に赤の女に会えるのだろうか。
かつて、こんなに頻繁に赤の女を見たことはなかった。
 
この前と同じ、カフェの注文カウンターに一番近い席に座る赤の女には、赤の女の証があった。
それは、髪にかけたカチューシャだ。
それは、小さなルビーが一列に並んで輝いているものだ。
満員かと思ったカフェだったけれど、私の指定席だけが空いていた。
昨晩に限って、用事が詰まっていたことを悔やみながら、
アイスコーヒーを注文している時に思いも寄らないことが起こった。
赤の女が、大きい空のグラスに、紙パックに入ったレモン色の液体をジャァーっと注いだのだ。
紙パックは、500ミリリットルのもので、存在感があった。
その様を見つめる私とカフェのスタッフが共に一瞬固まった。
席について、レモン色に染まったグラスと、紙パックを見た。
その紙パックのものは、普通のスーパーマーケットに並んでいるようなものではないようだった。
小さな横文字がぎっしりプリントされていた。


 直ちにカフェを出なければならなかった私は、一気にアイスコーヒーを飲み干して、惜しむように赤の女を見つめた。
 赤の女はまた本を読んでいた。
月初には、かなりのサイズに膨らんだ赤の女だったけれど、あの晩のサプリメントが効いたのか、二周りほど小さくなっていた赤の女だった。抑えた色の赤、コーラルピンクに近い赤の綿のパーカーを羽織っていた。
髪もあの晩のようにぼうぼうではなく、ゆるくうねった短めの髪は艶やかだった。赤いルビーが輝くカチューシャは、ティアラのようでもあって、さながらシンデレラの年上のお友達という感じだ。

 私は、かけ慣れないメガネをかけて、ジュースの箱を見るべくトイレに向かった。紙パックの箱は、席に置いたバッグの黄色いファーの大きなボンボンの陰に隠れてよく見えなかった。
ジャングルの奥地の村で友好の証にもらったのかと思われるなめした革紐のネックレスの中央のゴールドを良く見ることができた。横からはゴールドのジャラジャラだと思ったけれど、正面からしっかり見ると、中央に大きなピンク色の美しい瑪瑙が嵌まっていた。パーカーの下は紺色のワンピースだった。

瑪瑙だったのかと思っていると、今度は、トイレの前のテーブルにアクセサリーを作っている不思議な男がいた。
 その男を見るのも2回目だ。白いワイシャツに、紺色のズボン姿の細身の27、8歳のイケメン男だ。どこをどう見ても普通のビジネスマンに見えるのだけれど、この前も、ダイヤモンドの小さな粒を器用に付けていた。半田付けのような作業をしているのだ。
テーブルには、コーヒーカップと共に、完成したピアスが台に付けられて次々に並んでいく。
 私は、慣れないメガネをかけたせいか、めまいがした。
席に戻ると、赤の女が、待ち合わせの約束を電話でしていた。
持ち込んだジュースを注ぐ姿を見た後のこと、電話には驚きはなかった。
赤の女の声は、風邪声だった。
見れば、マスクが顎に付いていた。
電話を終えると、本にまたマーカーを引いていた。
本は、引き寄せの法則なるものが書いてあるこの前と同じ本だろうか。
カフェの賑わいに、今日という日が祝日だと知った。
赤の女は、仕事だろうか。
お休みだから、夜中の待ち合わせなのだろうか。

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