赤の女に会いたい。
そう思って夜のカフェに通い続けている。
けれど、その思いが叶わないことはわかっている。
去年の夏もカフェで赤の女に出会うことはなかった。
時間が合わないのだろうか。
夏の間は、私が9時ギリギリの入店になるから。
いたのは黒の女だった。
女大仏のように、静かに席に座って、正面を見据えていた。
実は、先週も黒の女を見ている。
その時と同じ席、縦に並ぶテーブルの先頭の席に座っていた。
今夏の黒の女は、ショートヘアに黒いベレー帽ではなく、
黒のニット帽を被っている。
暑くはないのだろうか。
黒の毛糸でザクザク編み込まれたニット帽は、
大仏様のパンチパーマのような、螺髪(らほつ)にも見える。
そして、昨夏と同じようなストンとした黒の半袖のワンピースを着ている。
赤の女は、
どこかお愛嬌があって、人間くさい。
けれど、黒の女は無表情だ。
先週は、何かを食べていた。
真っ直ぐに前を向いた顔の口元が規則的に動くだけで、頬は微動だにしていなかった。
黒の女の脇を通り抜けて、
トイレに行った。
その時、黒の女は、クロスワードパズルの本を広げていた。
黒の女が塗り潰した黒と白が目に飛び込んで来た。
そして、パズルの本から目を離した時に、私は再びハッとした。
黒の女のかけている眼鏡の柄が、黒白の牛の模様だったのだ。
ある意味、
赤の女の赤より
黒に徹している黒の女なのかもしれないな。
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