泥のように眠って目覚めた。
タトューのように紫の模様が腕に刻まれたのを見て、
私はため息をついた。
昨日は定番の憂鬱事である通院だった。
通院の用意は前日から行う。
太陽光は日焼け止めなどでは、到底防御できないのだ。
特別に製作した完全遮光の覆いで顔を覆わなければならない。
手製だから、綻びが生じていることがある。
太陽光は僅かな隙間も貫通するので、周到に点検する必要があるのだ。
夏場に通院はない。
かつて強い紫外線で眼を傷めて失明騒動になったからだ。
危うく忘れそうになったおしっこを採って、定番の憂鬱事だからと自らに言いきかせて、首に保冷剤を巻いて 太陽光を完全にシャットアウトする身支度を整えて出陣した。
こうしてやっとたどり着いた病院でまずは採血だ。
その採血がまた針山のような地獄になろうとは。
採血の達人であった師範が定年退職してから3年も経ったろうか、
未だに次なる達人に当たらない。
師範級に当たったと思ったら、実母の通院介助のため休む日と私の通院が重なって、安堵はつかの間だった。
昨日は、3度も針を差し直す事になったのだ。
もう15年近く前になるけれど、入院病棟のお局様と呼ばれる老婆が通院生活になると指名していた土田さんだった。
師範が休みの時にたまに代わって私の採血してくれることがあったけれど、決して上手くはなかった。お局様もそれは承知の上で、ただひたすらに優しくお局様の話を聞いてくれるということで指名していたのだ。
ちょいと針を皮膚にさして、グイーッと針を強く奥に進める。
以前にも増して痛んだ 。
挙句に途中で血液が上がらなくなった。
腕を変えて刺し直しとなった。
再び、グイーッと針を刺して針を押し込んで行く。
ところがまたもや途中で血液が吸い上げられない。
私は、痛みと不安で頭の中が空白になった。
土田さんが、誰かに代わってもらうと言い、頼んだ相手がまた
百発百中ならず、百発百外しのベテランだった。
夜がとっぷり暮れるまで私の腕の血管に針が刺し続けられるのだろうか。
私はノーの意思表示をした。
抜擢されたのは若い女性臨床検査技師だった。
上手く行った。
けれど、重ねた失敗でそれまで採血した血液が使えない可能性があるので余分に採血させてくれと言う。
血管が破られて皮膚の下で散らばった血液の醜い紫の跡、ますます通院が辛くなっていく。
(登場人物の名前は仮称です)
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