三日月が、爪で引っ掻いても取れないだろうという感じに高い漆黒の空に貼り付いた夜だった。
きりりと空気が冷たくて、年の瀬が迫っていることを感じて切なくもなった。
今夜は温かい紅茶に蜂蜜をたっぷり入れて飲もう。
そう決めて入ったカフェの、照明の向きを変えてもらった2席には先客がいた。
仕方なしに、照明が当たらない壁を向いた席にかけることにした。
安藤七宝店 |
紙のカップは赤地に鮮やかな緑のツリーが映えるクリスマス仕様になっていた。
備えてある蜂蜜を注いでいる間には、照明の具合が良い席が空いた。
そもそも店内には、ぽつんぽつんとしか客がいなかったのだ。
二つテーブルを挟んだところに24、5歳の女性がいた。
仕事帰りで疲れているのか顔をあげてぼーっとしていた。
その女性の横顔を見ていると、その先のエレベーターが開いて、
小さな老婆が出てきた。
それは紛れもなく小竹さんだった。
小竹さんは何食わぬ顔で、エレベーターの前のカフェの椅子に腰を下ろすと、壁を見つめていた。
小竹さんは出来上がったコンタクトレンズを取りに八重洲に行った帰りに違いなかった。
私は、歩き寄って肩を叩くほど元気ではなく、
沈んでしまった蜂蜜が混ざっていかない渋い紅茶を少しづつ飲んでいくうちには、
小竹さんは私の前を歩いて出口へと向かって行った。
私はそれを見送った。
小竹さんが、かなりの近視であることを私は知った。
面と向かっても小竹さんが私と気づかないのは、
小竹さんが小さいからということだけではなかったのだ。
だから、小竹さんは私が座っていることは気づかずに、通り過ぎたに違いなかった。
小竹さんからそのことを聞いたのは1日の夜だった。
今日の東京の最高気温は21度、最低気温は10度、晴れの予報です。
私は、紅茶にたっぷりと蜂蜜を入れて飲むと少しづつ生気が出てきます。
皆様もお疲れの時などお試しください。
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