汗が引いて
隣を見ると、
アラフィフであろうけれど、
綺麗な男女が向かい合っていた。
二人には、生活臭がなかった。
かなりの美人であろう女性の横顔と
男性の正面の姿が間近に目に入ってくる。
男性はパープルのストライプのボタンダウンのワイシャツを着ていた。
上品な出で立ちで、もの静かな人だった。
女性は、長身に違いない。
フラットなシューズの長い足を投げ出すように腰をかけ、
話の合間に背もたれにもたれると、
顔の位置が私より上にあった。
プリントのTシャツとベージュのパンツスタイルで、
特にセンスの良さを感じるものではなかったけれど、
美しい横顔が十分満たしてくれた。
横顔と声は、女優の余貴美子さんに似ていた。
そして、女性だけが、機関銃のように大声でしゃべり、
男性は、頷いて、微笑んでいた。
男性が兄弟の写真を出してみせると、
女性が、
「兄弟なら、もっとくっついて撮ればいいじゃない!」
と言ったので、二人は夫婦ではないと確信した。
この二人はどのような間柄なのだろう。
二人ともが独身という感じもした。
あれこれ思い巡らせていると、
ヒヤリとすることが起こった。
携帯の話に夢中で、ワンピースの肩ひもが下りて、肩が出ていることに気がつかずに、店内を歩く女性が目に入ると、
「なにあれ!あれでも女なの!」と隣の女性が大声で言い放ったのだ。
その時だけは、男性が女性を制するように手で押さえるポーズをして「携帯で話すことに夢中で 、気がつかないのですよ。」と言った。
幸い、肩出し女も、携帯の話に夢中で、女性の言葉は耳に入らずに通りすぎ、喫煙席に入って行った。
間もなく女性の話しが再開し、
じゃんじゃんと続いていたのが、
ある時止まった。
ふと見ると、
女性も男性も下を向いて、
お水のグラスを木の棒で、くるくると夢中でかき回している。
くるくる回す手は休まなかった。
見ているとこちらの目が回ってきそうになった。
向かい合って何をしているのだろう。
二人の手がほぼ同時に止まって、
小さなそのグラスを見ると、
透明のお水のはずが少し黄色いのだ。
二人はそれをあっという間に飲み干すと、
女性がすっくと立ち上がって、
二つのグラスを持って、
コーヒーのミルクやお砂糖とともに並ぶ蜂蜜のポットを手にして、グラスに傾けて細く輝く糸のように垂らし続けた。
グラスにたんまりと蜂蜜が溜まると、冷水サーバーから水を足して、席に戻ってきた。
二人は何度もこれを繰り返していた。
男性が入れてくることもあった。
くるくるしている姿を見ながら、お店を出る時に
女性の顔を正面から見ることができた。
息を呑むほどの美人だった。
青山フラワーマーケット |
蜂蜜は、冷水にはなかなか溶けいかない。
以来、私もくるくるを真似している。
けれど一度として、蜂蜜ポットにはたっぷりと蜂蜜が入っていることはないのだ。
あの日のように。
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