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2016年8月4日木曜日

カフェにて



汗が引いて
隣を見ると、
アラフィフであろうけれど、
綺麗な男女が向かい合っていた。
二人には、生活臭がなかった。
私の隣に女性、その向かいに男性だから、
かなりの美人であろう女性の横顔と
男性の正面の姿が間近に目に入ってくる。
男性はパープルのストライプのボタンダウンのワイシャツを着ていた。
上品な出で立ちで、もの静かな人だった。
女性は、長身に違いない。
フラットなシューズの長い足を投げ出すように腰をかけ、
話の合間に背もたれにもたれると、
顔の位置が私より上にあった。
プリントのTシャツとベージュのパンツスタイルで、
特にセンスの良さを感じるものではなかったけれど、
美しい横顔が十分満たしてくれた。
横顔と声は、女優の余貴美子さんに似ていた。
そして、女性だけが、機関銃のように大声でしゃべり、
男性は、頷いて、微笑んでいた。
男性が兄弟の写真を出してみせると、
女性が、
「兄弟なら、もっとくっついて撮ればいいじゃない!」
と言ったので、二人は夫婦ではないと確信した。
この二人はどのような間柄なのだろう。
二人ともが独身という感じもした。
あれこれ思い巡らせていると、
ヒヤリとすることが起こった。
携帯の話に夢中で、ワンピースの肩ひもが下りて、肩が出ていることに気がつかずに、店内を歩く女性が目に入ると、
「なにあれ!あれでも女なの!」と隣の女性が大声で言い放ったのだ。
その時だけは、男性が女性を制するように手で押さえるポーズをして「携帯で話すことに夢中で 、気がつかないのですよ。」と言った。
幸い、肩出し女も、携帯の話に夢中で、女性の言葉は耳に入らずに通りすぎ、喫煙席に入って行った。
間もなく女性の話しが再開し、
じゃんじゃんと続いていたのが、
ある時止まった。
ふと見ると、
女性も男性も下を向いて、
お水のグラスを木の棒で、くるくると夢中でかき回している。
くるくる回す手は休まなかった。
見ているとこちらの目が回ってきそうになった。
向かい合って何をしているのだろう。
二人の手がほぼ同時に止まって、
小さなそのグラスを見ると、
透明のお水のはずが少し黄色いのだ。
二人はそれをあっという間に飲み干すと、
女性がすっくと立ち上がって、
二つのグラスを持って、
コーヒーのミルクやお砂糖とともに並ぶ蜂蜜のポットを手にして、グラスに傾けて細く輝く糸のように垂らし続けた。
グラスにたんまりと蜂蜜が溜まると、冷水サーバーから水を足して、席に戻ってきた。
二人は何度もこれを繰り返していた。
男性が入れてくることもあった。
くるくるしている姿を見ながら、お店を出る時に
女性の顔を正面から見ることができた。
息を呑むほどの美人だった。
青山フラワーマーケット

蜂蜜は、冷水にはなかなか溶けいかない。 
以来、私もくるくるを真似している。
けれど一度として、蜂蜜ポットにはたっぷりと蜂蜜が入っていることはないのだ。
あの日のように。









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