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2021年5月1日土曜日

今日から皐月

翁家 織部

夜しか出歩けない私にも薫風は感じることができる。

コロナ禍にあっても季節は巡ってくるのだ。

置地廣場 織部焼
 

一筋の緑が美しいお饅頭は、織部と言う。
織部焼の織部だそうだ。
薫る緑を思わせてくれる。

 
皐月一日は私にとって特別な日だ。
母の命日であり、愛犬の命日でもある。
愛犬の名前は「福」と言って、柴犬よりふた回りぐらい小型の
オフホワイトの毛色の雌犬だった。
私は大層な犬馬鹿だったから、控え目な性格で、しなしなしている福を
「女優の松原千恵子さんに似ているでしょう」と友人に言った。
すると友人の大きな目はしばらく瞬きをやめてしまった。

 
高校時代の友人(Mrs.S子)には、彼女のホンダの愛車に福も乗せて、桜色に染まった大池公園まで連れて行ってもらったこともあった。
公園とは言っても、園内はほとんどが自然のままで、小山の斜面に、木製のテーブルと椅子が点々とあった。愛犬福がちっとも桜を見ないものだから、私は福をテーブルの上にひょいとのせて、少しでも桜を楽しませようと努めた。
福は、桜には興味を示さなかったけれど、首を上げて黒い円らな瞳を細めて、春の匂いを嗅いでいるふうだった。
優しい風が、福の頬の柔らかい毛を何度も撫でるように通って行った。

 
 
春の思い出は美しい。


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