安らぐために入ったカフェだった。
けれど、Free Wi-Fiが繋がらなくて
スマホのクーポンがうまく表示できない。
注文カウンターで、必死にもがいてしまった。
他に待つ客がいなかったことだけが幸いだった。
高がクーポンされどクーポンだ。
とは言え、ようやく座った私は、こんなに疲れるなら、
クーポンを使わなければ良かったと後悔した。
Free Wi-Fiに再び繋がらなくなっている スマホを置いたまま
しばらくぼんやりしていた。
坐禅や鎌倉の話をしている隣の男女に気が付いたのは、
アイスコーヒーを飲み干した後だった。
真っ赤なTシャツにショートパンツの女とハットを被った真面目そうな男が向かい合っていた。
女の艶やかさに私の目はパチクリとしてしまった。
真っ赤なTシャツに長い黒髪が垂れていた。
腰まで流れる髪は、不潔さが全くなく、暑苦しさもなかった。
それは髪の量が少ないからかもしれない。
私が腰まで髪を伸ばしたなら、頭が髪の重みで仰け反るだろうなと思ったりした。
女の長い黒髪は、古風というよりオリエンタルな女を作り上げていた。
女のオリーブ色のショートパンツは本当に短くて、
組まれた素足が惜しげもなく露わになっていた。
細過ぎず、太過ぎず、すんなりとした足だった。
それは腕も同じで、クリスタルの付いた瀟洒なバングルタイプの腕時計をしなやかな腕にはめていた。
すだれのように垂れた黒髪の間から、大ぶりのゴールドのピアスが時々揺れて見えた。
女の顔は無難に整っていた。
隣に置かれたバッグもまた真っ赤で、女の半身より大きかった。
女はできすぎたぐらい、艶やかだった。
真っ赤なTシャツにショートパンツ、長い黒髪、真っ赤なバッグの女には、けばけばしさがなかった。
男の意見を求める時、女の手指が新体操の選手のように美しく舞って男の顔近くに迫った。
それを見ていた私は、己が男なんだか女なんだかわからなくなってクラクラした。
女と向かい合う男の方が私より余程冷静だった。
女の方が男より年上だったのかもしれない。
女は事によると30歳を超えていて、男は20代後半だったかもしれない。
女は、鎌倉の美食の話をさらに聴きたい様子だったけれど、
男が話を畳んだ。
「明日が早いんで」と。
子供の頃に見た
菩提樹の下で仏陀が悟りを開く絵を思い出した。
そこには女性達の姿も描かれていた。
女達の白い手指は、仏陀を誘惑するかのように、
仏陀の顔近くまで差し出されていた。
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