白松さんは、おそ松副師長(ぐーたらナース5)を尊敬して止まないと、自らのたまう中堅看護師だった。
私は入院中のある時から、ぐっと容態が悪くなった。それは、これまでの経験にないほどだった。真夏なのに水を蓄えてしまっている身体は重く、寒くていられない。口を効くことも疲れてできないし、テレビも眼が疲れて見ることができない。おまけに記憶することが難しくなっていた。相当量のたんぱく尿が連日続き、アルブミンは2をとうの昔に切っていた。
馬酔木 |
車いすを押してやって来た白松看護師は、車いすと一緒に病室の入り口に立ったままだ。私は、そこまでがとても歩けないので、手招きした。すると、車いすを病室から入れた。ところが、私がやっと一歩足を運ぶと、車いすを遠ざけるのだ。また一歩進めると、車いすをまた少し引く白松看護師だった。それは、まるで砂漠の逃げ水のようで、私と車いすの距離が一向に縮まらないのだ。一歩の歩みがとてつもなく辛い私は、床に這いつくばって、進むしかないかと朦朧とした頭の中で考えた。病室の壁を触りながら、どのくらいの時間がかかったか、すでに病室の外まで引かれてしまった車いすに座ることができた時に、自らの病を改めて呪った。
ところが、次は、トイレが両サイドに並ぶところの、空きスペースのど真ん中に車いすを止められたのだ。そして、白松看護師はいなくなった。身体を委ねられるような柱もポールもない。1室1室となっているトイレまでどう行けばいいのか。
私はトイレのドアを車いすに座ったまま、なんとか掴んで、ドアにぶら下がるように身体を預けて、トイレの中に入った。その日、2回目だったと思う、尿は、鉛色で、ビーカーにわずか1滴しか出ない。尿意はあるのに、『これだけ?』驚きとともに病気の重さを痛感した。便座からなかなか立ち上がれない私はトイレのナースコールを押して、やっとのことで車いすに再び座った。そしてやってきた白松さんに、言った。「もう1人の看護師さんを呼んでください。」声を出すのもやっとで、その声は震えた。
迎えた朝の検査で、尿から出た1日当たりの蛋白の量は6.4グラム、既に貧血も始まっていたことが分かった。これはもうかなり腎臓機能がイカレてしまっている値なのだ。
白松看護師は、公平に悪魔だった。いずれまた。
(登場人物の名前は全て仮名です。)
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