「出来上がって参りました。こちらです。」
「美しいですねぇ〜」
「20カラットのお品と成りました。」
「お会計は後ほど、2億円となりましたので」
時刻は、午後6時を回ったところだった。歯科医師も、すでに30人近い患者の治療をこなした後だったと思う。
仕上がってきた艶やかな乳白色それは、水晶のようでもありオパールのようにも見える、セラミックの歯の被せものだ。
美しいですね〜という私の言葉に、歯科医師も疲労から乗ってしまったのだろう。
そう、クリスマスの今夜は、歯医者となった。光線過敏の症状が重いので、日の入りの早い秋、冬という季節にしか歯科医院に通院できないので、クリスマスの今夜も通院となった次第だ。
クリスマスのお食事などは、とっくに消えた。23日に届いた、それ用のアップルパイは、その日のうちに平らげてしまった。メインの犬のフンほどの小さな鴨肉は昨夜、胃壁にくっついてあっけなく消えた。薄くスライスされた鴨肉を、良人の小さな小さな米粒のような目が捕らえた。
私のお皿の鴨肉の枚数と自らのそれとを数えているのだった。男女平等、それが私が受けてきた学校教育だから。食い意地の張った者同士、クリスマスの夕食はいつにもまして恐ろしい。
帰途、いつもお世話になっている洋食屋さんの前に、クリスマスケーキの箱が一つだけ残っていた。25日の夜の8時、値引いてくれたなら購入かなと邪念がよぎった。カロリーを考えて、アップルパイにしたのに、生クリームたっぷりのホールのクリスマスケーキをさらに食らっていいのか?しかし、もう気がつくと店長に値引き交渉をしていた。売れ残ったら、近所の居酒屋に頼みに行くつもりだったという店長との交渉はあっさり妥結した。
5号サイズのクリスマスケーキをぴったり半分にナイフを入れる手が震えた。
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