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2013年12月16日月曜日

となりの患者10

入退院を繰り返していた年の、ある夏、雷鳴轟くようなバトルが病室で勃発した。
 女3人よれば、かしましいとは良く言ったもので、同じような年格好の女が川の字に並ぶ3人部屋でのできごとだった。
「うるさいのは、オメーの方だ!」 と私は怒鳴られた。
最初にぶっちぎれたのは、実は私だった。「その音どうにかならないかしら!」と私が口火を切ってしまった。
 廊下側のその彼女は、毎晩11時に腹膜透析の溶液パックをバシッビリビリと破り始めるのだった。パックは一つではないようでバシバシと音が続く。消灯時間は9時なので、寝入りばなにその大きな音で起こされる。私は、窓側で、間にもう一人女性がいるが、その真ん中の彼女は眠剤でぐっすり眠っている時なのだ。(ちなみに隣の男性6人部屋の腹膜透析の患者達は、消灯前の8時半頃に、廊下に出て静かにパックを開けていた。)
 夜11時のその行為の後、当の本人は爆睡して夜中じゅう大きないびきが始まる。眠剤を飲まない私は、眠れない日が続いていた。しかし、彼女の言う、うるさいのはオメーだ!、と怒鳴られて返す言葉が私にはなかったのも事実だ。なぜなら、ものすごい喘息発作が何度も突発的に起こるようになり、ベッドから転がり落ちそうなほど咳き込むその音がす凄まじいからだ。ステロイドを服用し始めた時で、ステロイドを相当量服用すると、血栓ができやすくなるため、それを防ぐためにバファリンが処方されたのだった。(おそらくアスピリン喘息だろうけれど、呼吸器の主治医まで病棟に診に来て下さったものの、なんとも原因がわかず、点滴でステロイドを落とそうか?などというお粗末な話になったりした。)
 
言い返された後、朝方までいびきが続いている中、今度は真ん中の彼女が語り始めた。となりの彼女は、2時頃からいつも眠剤が切れるようだった。私は、寝言だとすぐにわかったけれど、まるで正気のような発言だった。「子供じゃあるまいし、毎日毎日、周りの迷惑も考えて欲しいものだわ。そのいびきもどうにかならないかしら••••」お説教のような口調でとうとうと語られた。子供じゃあるまいし?というセリフが今になってわかった。廊下側のいびきの彼女は、自宅が近所らしく、ゴルフのキャディーさんが被るような白い帽子を被った母親が毎朝、7時に病室に訪ねて来ていた。真ん中の彼女は、朝の7時なんて病室に来ていいのかしらと以前から、私に言っていたのだ。
 そして、廊下側の彼女のいびきに堪え兼ねて、「眠剤をもっとください!」と夜中にナースコールで呼び出した看護師に訴えていた。その訴えは、日に日に増して、「ハルより強いの!」「1日の許容量を一度に全部出して!」と怒鳴る一幕もあった。そんな時でも廊下側の彼女は高いびきだった。
結局、真ん中の彼女の寝言で、3人は解散となった。寝言とは思わなかったのであろう廊下側の彼女は、外泊届けを出し、真ん中の彼女は元々手術前で、予定より早く、手術準備の為の2人部屋に移った。そして私だけが、病室に残った。間もなく別の患者がとなりに来たけれど、いつか血を見ることになるなと、私は喘息発作の度にナースステーションに駆け込むようになった。
 

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