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2019年4月26日金曜日

無口という病気20

翁家

 私にだんだんと生気が戻ってきた時、
無口という病気の良人は、しばらく恨めしそうな目で私を見つめていた。
それは、良人の夢が崩れゆくことでもあったからに違いない。
先方が牛男をどう思っているかは別として、
職場の独身女性A子さん、B子さん、C子さん、D子さんのいずれかとの新しい結婚生活、
新婚旅行はシンガポールとまで牛男は決めていたのだ。



 私もいけなかった。
けれど、あまりに背中が痛んで、
息をするのも辛いものだから、
「私は、東京五輪の頃にはもういないのよ。どうか最後の奉公だと思ってさすっておくれ。」と言って、毎日のように背中をさすってもらったのだ。
疲れている牛男は、時にいやだとも言った。
そういう時は、
「私が死んだ後で、あの時、痛む背中をさすってやれば良かったと後悔するから。だから、さすっておくれ。」と私は老婆の最後のお願いのように訴えたのだった。


 牛男は、最初は丁寧にさするけれど、
数分すると、手に力が異様に込められて、今度はその力で痛むようでもあった。
私は、伏せていて、牛男の顔は見えない。
けれど、こん畜生とばかりに歯を剥いてさすっている牛男の顔が見えるようでもあった。
さすりながら、私の闘病生活を支えてきた14年もの長い間の様々な苦労が走馬灯のように思い出されて、苦々しい思いが込み上げてきたのだろう。
 ある時、それは食べ物が飲み込めるようになった時ぐらいだったか、牛男が一言発した。
「私の人生は貴女にdisturb された」と。
それは、直ぐに disturbの意味が出てこない私の知的レベルをあざ笑うかのような発言でもあって、私は的確だとは思ったけれど、同時に不愉快な気分にもなった。


そんな良人も、黄金週間が近くにつれて
機嫌が良くなってきている。
今日の東京の最高気温は16度、最低気温は12度、雨時々曇りの予報です。
今日の仕事が終われば、旅の支度の方も多いでしょうか。
楽しい黄金週間をお過ごしください。

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