気分は、鼠色。
思考は、後ろ向き。
筋肉が落ちてしまうとか、
頭がボケてしまうとか、
そういうことはとうに気にならなくなってしまった。
来る日も来る日もかたつむりのように布団を背負ったままだ。
どうにもかったるくて、身体を起こしていられない。
ただ一つ気になっているのが、八重桜が盛りを迎えているのではないかということ。
コートだけ羽織って、久々の夜を出た。
都会でも丑三つ時の闇は深くて、八重桜が見えない。
夜空を遮っているのが、花なんだか雲なんだかわからないのだ。
通りを行く人も自転車もなく、真冬でもあるまいにピューピューと風が唸って私を脅かす。
頑張って出て来た甲斐もなかったと、気を落とした。
ふと向こうの辻を見ると膨らみかけた月が重そうにぶら下がっていた。
月で良しとするかと、ひたひたと家路を急いだ。
すると、歩道に、揺れる八重桜が模様のように映っているではないか。
嬉しかった。
ひとしきり影絵のような八重桜を眺めた。
花影に酔わされて、歩み続けた時、ふっと振り返った。
すると、背後に大きな男が立っていた。
ミリタリーカラーのジャンバーが目に飛び込んで来たけれど、
どこに向かうでもない風のその男の気配が怖くて、
私は 男の顔は見ないままに、走り出した。
走った走った。
長く寝込んでいたのにこんなに走れるものかと思うほどに、走った。
ふり返るな、ひたすら前を見て走るんだ、と自らに言い聞かせて。
心は、平成生まれの乙女なんだな、私は。
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