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2013年5月11日土曜日

ドラキュラ的生活3

光線過敏の症状が重いドラキュラは、昼間は全く外出できない。従って、美容院に行くのも闇夜になってからだ。棺のドアをハイヒールで蹴り開けて、支度を始める。夕刻6時半、まだあたりは薄明るい、トワイライトだ。これでは、肌も目もやられてしまう。仮面をつけて、マントを翻して、出かける。 

 薔薇色のプジョーに乗り込んでと言いたいところだけれど、NPO法人の運営する介護タクシーが迎えにきてくれている。
都会の街を走り抜けてもらい、カリスマ美容師のご慈悲により夜7時まで待ってもらっている。7時が限度と言われているので、向こう3ヶ月は行くことができない。これからますます日が延びて6時半には到底、外には出られないのだ。 
「ようこそ、いらっしゃいませ。マントをお預かりしましょう。」ずらりとマントがかけられているが、私のは表が白、裏地が黒なので他のドラキュラのものとは間違えられない。どうしたことか、今日の客は皆、黒いマントを着けたまま座っているではないか。私が入店すると、客が一斉に振り向いた。振り向いた客の口元には皆八重歯?いや、錯覚だった。マントと思った黒いそれは、クロスだった。
頭上の蛍光灯は消してもらい、鏡の上のハロゲンライトだけで髪を切ってもらう。カリスマ美容師は手元が暗くて、大変だといつも言う。   
上々に仕上げてもらい、
闇夜に浮かぶ東京タワーを背に、
マントを翻し、風薫る夜の街を歩くのだ。客がひけて、灯りの消えた料亭の軒下には白牡丹が咲いていた。
途中カフェに立ち寄り、岩のように堅いタルトの底を割り砕き、濃いめのコーヒーで流し込む。さあ、空が白ずむ前にまた棺の中へ戻らねば。



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