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2021年6月9日水曜日

マックにて


 
 ついに私の脳みそは、病、病、病、病とプリントされた病柄の包装紙にぴったりと包まれてしまった。
そんな頭を抱えて闇夜にマックへ行った。
丁度ひつじのおばあさんがガラガラとショッピングカートを引きずって立ち去るところだった。
私は意味もなくその後ろ姿に目をやった。
あら、ひつじ婆さんのショッピングカートが変わっている。
これまではチェスボードのように白と茶色の四角で規則正しく埋まった柄のであった。いわゆる市松模様である。
それが、燻んだピンク一色のに変わったのだ。

 
脳みそが蒸れているせいで、
マックのカップが変わったことに気がついたのは、いざアイスコーヒーに向かい合った時であった。
さすが、コロナ禍で業績を伸ばしているマックである。

 
ひつじのおばあさんの方は、おそらく景気良くショッピングカートを変えたと言うこともないのであろう。
チェスボード柄のが壊れたに違いないと私は想像した。
何故なら、ひつじのおばあさんは、ショピングカートに沢山の本を入れて運んでいるのだから。
いわば一人移動図書館だ。
ひつじのおばあさんは、いつも私が入店する夜の7時半頃に、去って行く。その後、スーパーマーケットで見かけることが多いけれど、買い物は背中のリュックに入れているのだ。
もしや、朝からずっとマックに居て夜まで読書に勤しんでいるのだろうか。
ドラキュラである私は昼間のひつじおばあさんを確かめることはできない。
 ある夜、「老いを生き抜く」をテーマにアクリル板越しに隣の若者に懇々と語っていたことが あった。
黒いマスクの若者は、嫌な顔もせずに時折相槌を打ったりしていた。マスクで顔の半分が覆われているので、若者の心の本当はわからない。

 
またある夜、トイレの入り口でひつじのおばあさんと鉢合わせになったことがある。出ようとした私の前に、我が子の手を引くように、目がチカチカするチェスボード柄のカートを引いて現れたのだ。
近くで見たひつじのおばあさんの顔は彫りが深く、ハーフかクォーターと思える顔立ちであった。 
ひつじのおばあさんは、便器が鎮座するトイレの中までショッピングカートを入れただろうか。
この上に、老いを知りたくない私はひつじのおばあさんを遠くでたまに見ることにしている。

 今日の東京の最高気温は30度、最低気温は19度、晴れの予報です。
本日も当ブログにご来訪いただきまして有難うございました。

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