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2021年6月19日土曜日

ヘルプマークの理解を(泣ける話、泣かされた話)

 

 それはまたしてもかんかん照りの通院の日だった。
乗り込んだタクシーの運転手さんの思いやりに泣けた。

完全遮光傘をさして、いち早くタクシーに乗り込んだ私は、今度は顔を覆う完全遮光の手製の覆いを出したり、下肢を覆う完全遮光の布を脚に巻いたりして大わらわだった。微量の紫外線に20秒当たっただけで皮膚が熱傷になる私は日焼け止めクリームなどでは太陽光はどうにも防げないのだ。

「お客さん、日除けを下ろしておいたよ。ほら、後ろも横も」 と運転手さんが言う。
私は、顔の覆いを少しずらして車内をチラッと見てみた。すると確かに、グレーの目の細かなサンシェードが下りていた。
初めて乗るアルファードなのにと私は思って、運転手さんに尋ねてみた。すると以前、プリウスに乗っていた時に一度私を乗せたことがあって、住所の番地で私に違いないと思ったそうだ。
それで、日除けを全部下ろしておいたと言うのだ。
私は、車内でも完全遮光傘を広げて膝に乗せて、両手で顔を覆う完全遮光の覆いを持っているものだから、肩にも膝にも力がこもっている。その力を緩めて、何度も有難うと言った。
ヘルプマークの理解を

 この度の通院は、太陽光の問題とは別に、
心がえぐられるように心ないなことがわが身に降りかかった前回の通院の出来事が消えないでいた。
だから、運転手さんの親切が泣けるほどに沁みたのだった。
一年で一番紫外線が強くて、日照時間が長い季節となって、通院の苦労も最も重い。
通気性のない完全遮光の上着の下は、汗が止まらない、ようやく病院に着いて、診察が終わっても、真っ暗になるのには数時間はかかるのだ。
10年くらい前になるけれど、今時分に失明のリスクがある虹彩炎を起こして以来、紫外線が強い夏季の通院は止めるように医師から言われている。しかし、この時期に難病と気管支喘息の認定更新手続きを迎えるため、診断書の作成依頼や検査を行わなければならないのだ。
紫外線を浴びれば、皮膚や眼のみならず様々なところが故障する。
苦肉の策が、原則午前中の診察の大学病院にあって、午後の特殊外来の最後の枠で診てもらって、夜に帰宅すると言うことだ。
6月に入ると東京では19時でも空が明るい。窓のない待合室の頭上に照明がない所に腰をかけて新聞を読んで、暮れるのを待っていた。すると突然上の方から声がした。
「何をしているんだ」顔をあげると大きな警備員だった。
病気の事情を話して、ことが済んだかと思ったら、
「こっちは、あんたが昼間病院の入り口から入って来たのを見ているんだ!」
私は、一瞬何を言っているのかと思った。血液検査があるから遅くとも15時半には病院に来なければならないのだ。だから大変な思いで来ているのに。
ところがつまり警備員は、昼間来ているのだから、紫外線に当たれない言うのは偽りだと言いたいのだ。
私は、他の患者が避けて通るほどに、特別な格好をしている。
視界がほとんどない大きな完全遮光帽子を被り、放射能除染作業着のような完全遮光の上着を着込んでいる。もちろんヘルプマークをバッグにもつけている。
「この格好を見ればわかるでしょう?」と言っても、全くわからないと警備員は言う。
説明すればするだけ突っかかってくるのだ。
腎臓科では他の患者がいなくなって待合の天井の 灯りを消してくれたけれど、清掃に洗剤が使われて、化学物質過敏症だから喘息が出て来たので、皮膚科に移動して来たのだと言えば、「洗剤で化学物質過敏だと?」とふざけるなと言わんばかりの口ぶりだ。
刑事にでもなった気分なのだろうか、こちらの心がズタズタになっているのとは裏腹に得意げに追求を止めない警備員だ。
腎臓科にも皮膚科にも、了解を得ていると言っても聞く耳を持たなかった。どうしても不審者一人確保の手柄を上げたいと言う感じだ。
商業施設でもなく、ここは大学病院だ。私のように難しい病気の人が通う医療機関なのに。
私は、苦々しくも言葉を失った。
いや、自称28歳と言いつつ、老いぼれた。
最後には、「あなた方、あなたの警備会社に医療機関の警備をやる資格はない」と繰り返すだけとなってしまった。 

話終わると、タクシーの運転手さんが、どうか元気を出して、またこの車に乗ってと言ってくれた。

 

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