そしてもう1人、向かいのねーちゃん。ねーちゃんは、ふらふら病室を出て行っては、どっかで倒れてストレッチャーで運ばれて帰ってくる。そんな晩は、医師数人と夜勤看護師3人が軍隊の行進のように『ドッ、ドッ、ドッ』と靴音高くやってきて、バイタルチェックを行う。1時間ごとに。
私は全く眠れない。朝カーテンを閉めたまま、なんとか眠ろうとしていると、張り切り副師長がやってきてシャーッとカーテンを開けてしまう。「あんこさん、どうしたの暗い顔をして!アッサですよー」
『お願いだー寝かせてくれー』と言いたいけれど疲れて声も出ない。
副師長は昨夜の病室全体の様子はわからないのだ。なぜなら、この病棟では口頭での引き継ぎが全くない。看護師に1人1台のノートパソコンが支給されていて、各看護師は、その日の担当の患者のデータを見るという具合だ。しっかり見てるかどうかは確かではないけれど、その日担当する患者のことしかわからないのだ。
あとの2床だが、1床は脳梗塞か何かの後遺症かと思われる婦人で、話すことも歩くこともできず、いつもベッドからずるっと下がったままじっと悪臭に耐えている。時々看護師に、「自分でベッドの柵を蹴って自分で(ベッドの上の方に)上がって!」と鬼のようなことを言われている。
もう1床は検査入院の比較的若い患者が2日程度で回転している。皆口々に2日の辛抱と言いつつ鼻をつまみ、その日の検査が終わると外出許可をもらって、お出かけをしてしまう。
私は、窓の向こうに見える個室病棟を懐かしく思い、切なくなるのだった。
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