うんこ以上にうんこな匂いに再び包まれた私は、身体を起こしてマスクをかけた。すると、向かいの手下のベッドはもぬけの殻で、当然ながらそのとなりのボスもいない。私の左となりのねーちゃんもいない。
『脱走かぁ』と思った。残されたのは、私と、はす向かいの動けないご婦人だけだ。私はトイレまでの歩行ですら危ういのに、それより遠い談話室まで行って余分な体力を消耗させるわけにはいかなかった。トイレに逃げても全く意味がないのだ。
三度事が起きようとしたとき、注視していると、ボスは、私のとなりの患者がナースコールを押すと同時に、10センチほど開く窓を素早く開ける。次にボスは、手下の肩をポンとたたく。手下は何も答えず、直ぐさまスリッパを履く。そして2人は連れだってスタコラサッサと部屋を出て行く。2人が部屋を出るまでの一連の動作は、あうんの呼吸で慣れていた。それより少し遅れてねーちゃんが、サンダルを鳴らして出て行く。
『誰か、だれか私をかついで連れて行ってくれ!だれか、かついでぇーだれかー』私はこころの中で何度もなんども叫ぶのだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿