個室にいて寛解の兆しが見えてくると、ベッドの中で左を向いても、上をむいても、右を向いてもかさむ室料代が気になって落ち着かなくなってきたのだ。6人部屋だと、部屋の外のトイレまで歩くことと、人間関係が病身に吉と出るか凶とでるか不安はあった。
私のベッドは2つのベッドに挟まれた真ん中だ。向かいもベッドが3つ並んでいる。挨拶も早々に、早く横になりたいと思い、荷物はそのままに、カーテンを閉めようとしたが、ボスのいる左斜め前方だけは少し空けておくしかなかった。病室内は皆カーテンを開けていて、親分と手下の間などは全開状態だ。こんな中でぴったりと閉めると、いやみな感じになってしまう。そこには協調性がなくも小心な情けない自分があった。
少し眠りたかった。しかし、環境が許さなかった。程なく左のねーちゃんが号泣し始めたかと思うと、右のおばあさんのところには、話相手がきたのか、おばあさんは耳もつんざけるほどの声で自らの半生を語り始めた。両隣ともベッドは手が届くほどの距離だ。向かいのボスはしゃがれ声で、なにやら手下にしゃべっていて、手下の「ウッヒヒ」「ウッヒヒ」という笑声が聞こえてくる。両隣の騒音で、もはやボスの話はよく聞こえない。まるで人が行き交うダウンタウンの路上で仰向けに倒れている感じだ。おばあさんの語りがぴたっと止むと、今度は、うんこ以上にうんこ臭い匂いがぷーんとしてきたのだった。つづく
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