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2021年9月29日水曜日

マックにて


「あの女の人も毎日来ているんだよ。」
あの女の人とは他でもない、私、ドラキュラのことだ。
 
広がる吹き抜けの空間に、歩みを進めて空いた席に荷物を置こうとした時だった。
耳に入れぬようにしながらも、「わざわざご紹介いただきまして、でもね、具合も悪かったし、諸般の事情があってちょっと休暇をとっていたのが本当のところでござんすよ。」と心の中で語った私であった。


私を指差して言っているわけではないけれど、あの女の人と言ったのは、いわゆる昭和のお婆さん風情の人であった。
大抵は、ひょろっと首の長い男を用心棒のように連れている。
そうであった、この2人もまた通うマックのレギュラーメンバーであった。

お婆さんは、80歳を超えているだろうか、男は一見50代に見えるけれど、60の声は聞いているかもしれない。以前は息子かと思ったこともあったけれど、昨夜の話ぶりからすると全くの赤の他人であろう。

お婆さんは、真っ黒に染め上げた髪をお団子に結い上げている。
頭のほぼてっぺんに大きなしっかりとした鳥の巣のようなお団子だ。お団子は崩れないようにネットで覆っている。
洋服を着ているけれど、どこか浴衣のような雰囲気のものだから、サザエさんの原画に出てくる典型的なお婆さんの姿である。 
揺るぎないお団子に、紅色のまん丸の珊瑚の簪が見当たらないのはちょっと残念な感じもある。
小唄のお稽古の後にマックでちょいと珈琲をという感じだ。
男は、キャップを被り、ボーダー柄のカットソーという極めてカジュアルな格好でいる。
男は、巧みにお婆さんに相槌を打ちながらも、いつもペラペラと喋り続けている。
話の内容は、記憶しておこうとしても端から忘れてしまうような他愛のない世間話である。

ところが、昨夜については私も酷く同感と思ったのか記憶に残った。

「8時じゃね、どうにもなりませんよ。
病院の帰りに、買い物に行くでしょ、そうして、ちょっと疲れたな、お茶飲もうか、ご飯でも食べようかと思ってもお店は閉店なんだから。9時だと大分助かりますよ。」

ドラキュラも緊急事態宣言はしんどかった。
春のお終いから夏季の4ヶ月もの間、辺りがやっと真っ暗になる時分に、ラストオーダーで間に合わない。
熱が続いたり、今でも不調なのは、少なからず影響したと思っている。 
日没が早くなったとは言っても、外で食べるなら、溜まってしまった用事は諦めるしかないのだ。

僅か5分だけ、マックの椅子に腰を下ろしたことも幾度もあったっけかな。

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