2006年の初夏、入院中の地獄部屋に蜘蛛の糸を垂らしてくれる釈迦は現れず、仕方なく個室に移り、なんとか退院した。しかし、1ヶ月もたたない丁度今時分の暑い日に再び入院となった。前回の入院時の6人部屋が始終ひどい悪臭にあったことを知ず申し訳なかったと、師長のはからいで今度は、3人部屋になった。
その3人部屋で、再びボス(地獄絵図)と出会う。 通路側には、寝返りさえ打てない親分(おもしろ話7(となりの患者))がいて、夜中にお経を唱える婆(となりの患者3)がやっと退院した後だった。
ボスは、私の顔は、かろうじて覚えているようだったが、名前など知るよしもない。地獄の6人部屋にいる時、ボスは、後から来た奴の名前などどうでもいいと言わんばかりの態度だった。私の方は、しっかりボスの名前も覚えていて、「高田さん!」と声をかけるとボスは少しうれしそうだった。私は、ボスに夜中にお経を唱えるとなりに居た患者の苦労話を訴えるようにした。しかし、ボスは初めからあまり聞いていない。そんな話は序の口とばかりに、ボスの方が語り始めた。
それは、やはり今の病院で、何年か前の事だったと言う。ボスの隣の患者が、全く病院食を摂らず、家族が毎日持参する桐箱に入った水だけをひたすら飲んでいたというのだ。医師が注意しても全く聞き入れない。
ある日も、家族と思われる数人がいつものようにやってきて、 いつものように、なにやら不思議な気配になった。ボスは、いけないと思いつつ、そっとカーテンの隙間から隣のベッドを覗いてしまったそうだ。すると度肝を抜かれる光景が繰り広げられていたというのだ。うつぶせに横たわった、となりの患者は素っ裸で、家族かと思われる1人が頭から足の指先まで手のひらで幾度もなでるように、さすっていたというのだ。上から下へと何度も何度も。仰天したボスは、不気味なその光景に息が止まりそうになったという。
私は、その話しにすっかり魅せられ、負けたと心の中でつぶやいたのだった。
(登場人物の名前は仮名です。)
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