となりの患者が入院してきてまだ間もない時だった。下痢が続いているようで、いつも慌ててトイレに駆け込んでいるふうだった。病室にはトイレがない。古いふるい病棟は、おそらく昭和40年代の建物だろう。廊下を10メートルほど歩き、コーナーを曲がってさらに6メートル歩いてやっとトイレ入り口だ。
ある日、となりからぷーんとうんこの臭いがしてきた。間に合わなかったのだろう。となりの患者は、急いでトイレに行ったようだった。私もくさい臭いに耐えかねて、部屋を出て廊下に出た。夜中で、各病室の電灯は消され、廊下の灯りも控えてあった。うす暗い中、となりの患者と思われる婦人が戻ってきた。とても不自然な歩き方だった。暗いし、となりの患者の顔がまだよくわからなかったので、となりの人かしら?と、つい、すれ違ってから、振り返ってしまった。すると、お尻まる出しの、すっぽんぽんなのだ。驚いたのなんの。ぎょっとした私は、まさに心臓が止まりそうだった。パジャマの上着は着ている。しかし、ズボンをはいていないのだ。パジャマのズボンを手に持ち、ズボンの足を垂らして、病室側の方の脚に当てて歩いている。ちなみに廊下に面した各病室の扉は全開だ。暗いので、病室から見たら、ズボンをはいているように見える?かもしれない。私が振り返るまで、それと気づかなかったのは、私とすれ違う時は脚の前側(正面)にパジャマのズボンを当てていたのか?
後のち、となりの患者と私は仲良くなった。70歳半ばのとてもいい人だった。この病院には20年以上通い、しょっちゅう入退院を繰り返しているという話だった。夜中に、トイレに看護師を呼んで、病室に下着を取りに行ってもらうのは悪いと思ったのだろう。勝手知ったる我が家のような病棟、すっぽんぽんでベッドに帰った方がてっとり早いと、入院キャリアもそうさせたのかもしれない。
となりの患者は、合計6つの病室をつなぐ廊下をすっぽんぽんで歩いたのだ。
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