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2011年12月4日日曜日

となりの患者5

病棟で、お局様と呼ばれている老婆もまた入院している事が多いようだった。しかし、おもしろ話8(となりの患者)のとなりの患者と決定的に違うのは、確かに時々は退院していることだ。なぜなら退院の時、私はもう一人の患者と、タクシー乗り場まで、お見送りに出たこともあるからだ。
 病棟でただ1人、シルクのパジャマを着て、バーバリーのサンダルを履いていた。ドラマ「下流の宴」のモデルではないかと思われるような人だった。最もドラマの主人公由美子ではなく、由美子を育てた母親(野際陽子が演じていた)に酷似しているのだ。由美子の母親は、医師である夫を若くして亡くし、補正下着を売って、娘達を大学まで出したという設定だった。由美子の母親は、貧しく暮らす、由美子の同級生をあっちに住む人と言いさげすんでいた。
 お局様も若くして開業医である夫を亡くしながらも、娘達を私立大学の医学部を出したというのだ。お局様は、補正パンツを売って娘達を医師にしたのではないようだけれど。お局様の父親も開業医だったそうで、察するところ、親の資産で娘達を育て医学部を出したのではないかと思う。
 お局様は、人類を「医師」と「医師でない人」とに分けて考えていた。看護師を今だにあえて「看護婦」と呼び、看護婦なんかと結婚する医師を「あちらの方」と言うのよと。お局様によれば、一流の医師は女医と結婚するというのだ。お局様ご自身は、医師ではなくG大学をご卒業の、いわゆるお嬢様なのだが。「昔はそういうものでしたもの」とおっしゃるのだ。
 お局様と病棟廊下で会うと、いつもお局様が一方的に、至らぬ婿殿や看護婦の話をする。お話が終り、お別れの時、何故か私は「ごきげんよう」と言ってしまっていた。

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