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2008年8月25日月曜日

地獄絵図10

 ボスの後のはじのベッドに移れば、少しはマシになると思ったのは甘かった。それは、見通しが甘い私の人生そのもののようだ。
 ばあさんのうんこ以上にうんこな臭いのおしっこ臭からは全く逃れられなかった。が、考えてみれば当たり前だ。隣のベッドに優に手が届く、ベッドがひしめき合った狭い6人部屋だ。そもそも、前のこのベッドの住人(ボス)が臭いが辛くて脱走を繰り返していたわけだし。
 さらに環境は悪化した。引っ越した当初、隣だった手下は、わずか二日で退院し、後任は、これまた年がら年中、ぴーぴーうんこの、おむつのばあさんだった。今おむつを取り替えてもらったかと思うと、すぐさままたナースコールのボタンを押して、「おむつを取り替えて!」と言うおばあさんだった。
 認知症かと思ったが、そうではなかった。歳は60歳半ばぐらいの。どういうわけか、下剤を内服した上、点滴にも下剤を入れていた。カーテン一枚を隔てて「ピーピー」と天下を引き裂くような、けたたましい音が鳴る。臭いの方は既に空気だ。うんこ以上なうんこ臭をかいでいると、普通にうんこな臭いはもう感じない。
 来る日もくる日も、24時間、隣のピーピーは続き、その合間にバーンとシンバルのように向かいのはじで、うんこ以上にうんこな臭いの爆弾が投下される。そんなある夜、薬の時間になった時、夜勤の看護師が隣のばあさんに、「今日の昼間うんこ出た?」と尋ねた。私はついに神が来た!と思った。隣のベッドで横になっていた私は、大きく頷いた。『ピーピーでっぱなし!』と心の中で私は叫んだ。
 しかし、次の瞬間私は凍り付いた。ばあさんは「出てないよ。」と答えたのだ。「じゃあ、今夜も下剤飲もうね」と看護師。『う、うっそー!うそだぁ〜』涙が溢れ出てきて、天井やカーテンが滲んで見えなくなった。


2008年8月23日土曜日

ナースいろいろ3

ペラペラと患者にお世辞を言ったりする看護師は、仕事が手抜きだったりする。
 一方、無愛想でいつもふぐのようにぶーっとした看護師が労を惜しまず働き、採血の時の注射針もいつ刺したの?と蚊よりも感じないほど上手だったりする。こんな傾向は看護師の世界だけじゃないような。

2008年8月17日日曜日

北京五輪男子バレーベネズエラ戦

まさかのストレート負け。
予選敗退が決まってしまった。
放心、そして寂しい思いが込み上げてくる。
早くも秋風が吹いたような。
『切り替えて、いこー!』っていうのは私には無理だぁ

2008年8月15日金曜日

今、願を掛けるとしたら

バレーボールの北京五輪予選通過か?
いや、やっぱり自らの健康回復だ。
所詮、私はニワカ(ファン)かぁ。
しかし、男女ともハラハラする試合展開、そして大きな落胆は身体に障る。
ここでバレーの勝利を願掛けして、歓喜で免疫力をアップさせ、病撃沈という作戦に出ようか。

2008年8月14日木曜日

地獄絵図9

 私の秘策。それはボスが退院した後、窓側のボスのベッドに移動すること。ばあさんからは一番遠い部屋のはじで、サンドイッチ状態ではなくなる。連日のばあさんの大声での我が半生の語り、悪臭から逃れられると思った。願いは聞き入れられ、移動成功。睡眠不足続きの私は久々に眠った。
 ところが、一瞬にして夢は壊れた。午前三時に起こされたのだ。うんこ以上にうんこな激臭で。臭いで起こされるのは生まれて初めてだった。これまでも夜中に何度かあったが、眠ってはいなかった。今回は眠っていただけにいつも以上に悲劇だった。寝ぼけていて、なんだろう?とクンクンと臭いをかいでしまったのである。かがなくてもいい臭いを、かぐ必要のない臭いを。愚か者が、入院中で劣悪な環境下で生きていることがわからなくなっていたのだ。
 ベッド脇の10センチほど開く小窓を開けても全く意味はなかった。ほかの患者は眠剤でぐっすり眠っていた。私は、とるものもとりあえず、談話室に歩いた。靴下も膝掛けも持たず、椅子に横になると身体が冷え冷えした。病気が悪くならなければいいなぁと思いながら一時間半しのいだ。
 明くる日のお昼近くに、昨年同室だった知人が別部屋に緊急入院してきて、私の部屋に会いにきた。ところが、彼女は鼻に腕を充てたきり離さない。「臭くてこの部屋いられないよー」と一言だけ。爆弾は八時に放たれて、私は消臭したように感じていた。換気扇が設置されているわけでもない、室内はすでに年がら年中臭くなっているのだった。

2008年8月5日火曜日

おもしろナース5

 新人ナースの町子ちゃんは、その春まさにナースデビューしたてだった。笑った時、顔の皮がこわばるだろうなぁと思うぐらい、まんまるな顔はいつも厚化粧だった。丸いスポンジケーキにピーナツクリームを塗りたくったような。大きな丸い目には黒いアイラインがくっきりひかれている上、びゅんと長いつけまつ毛がつけられていた。
 朝、町子ちゃんに顔を覗かれると、びっくりして、重い瞼がかっと上がりこっちまで目を見開いてしまう。
 ある日、「マスカラじゃなくてつけまつ毛なの?」と町子ちゃんに尋ねると「あんこさん、マスカラなんて今は古いんですよ。今はみーんなつけまつ毛ですよ!」
 私は驚くと同時に寂しい気持ちになった。入院だの、退院しても通院だけの生活で、電車に乗れず、オフィス街をかっ歩できるわけでもなく、デパートにも行けず、娑婆の様子は全くわからない。『こうやって時代から、どんどん取り残されていくのだなぁ』と。
 しかし、数ヶ月してふと思った。少なくとも病院内のナースでつけまつ毛をしているのは町子ちゃんだけだ。本当につけまつ毛がメジャーなのだろうか?
(登場人物の名前は仮名です)