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2008年2月11日月曜日

おもしろ話7(となりの患者)

 極、ごく、たまにとなりの患者が気の合う人であることがある。その場合、対等な友人関係ではなく、必ず親分と子分といった感じなる。となりの患者が、大抵は私より年長ということに起因するだろうが、「へえへえ」とつい人にこびへつらう私の性格がそうさせてしまうのかもしれない。
 容態が良い時は、となりの患者に「売店に行くけど、何か買ってくるものある?」とご用聞きをし、200ミリの紙パックのジュース一つぶるさげてくるのはお安いご用。親分が「輪ゴムある?」と言えば「へいへい、ござんす」と手渡す。
 しかし、親分の命令でどうしてもそれはご勘弁をというのがある。最悪魔の看護師が誰か教えろというもの。「ワースト1、2、3を言え」という。親分には、早々に白衣の天使ベスト5はこっそり教えた。ベストを教えることはできてもワーストは、たとえ親分にも口にすることはできない。
 それは、人の悪口を言うことは自らを貶めるといった上等な理由からではない。単なる保身で、病棟で暮らすための掟だ。病棟という狭い社会の中、もし漏れたりしたら、ある日から食事が朝昼晩毎食パンになる?注射は悲鳴をあげるほどに針を刺される?想像はつきない。冷遇冷視は言わずもがなだ。
 私の退院の目処がついてきたある日、親分が私のパジャマの上着の裾をつかんで離さない。「私はまだまだ入院していなければならない、お願いだからワースト看護師を教えてくれ」と。「×××だろ!」親分の口から最初に出た名前は、まさにワースト1の最悪魔だった。患者が悪魔と思う看護師は皆同じなんだなぁと思った。私は、首を縦にも横にも振れず・・・しかし、それは是認したも同じだった。
 親分は、それよりも以前、看護師の名前を廊下に貼りだし、人気投票をやれ!と言ったこともある。高校生じゃあるまいし「そんなことできないよ」と私は答えた。親分は寝返りをすることもできず、起きることもできないので食事も自分でとれない。入院当初数日、介助がなく食事をとれずにいたこともあり、入院生活には苦労している。親分は、看護師人気投票結果を張り出して、悪魔をこらしめたいと思ったのだろう。私は、しばらくは病気が重かったので、せめて白衣の天使を教えて、その看護師にいろいろ頼むと良いと教えたのであった。
 たぶん遠くに住むとなりの患者(親分)は二度とこの病院には入院しないだろう。私は一体どうしたら良いのだろう・・・・途方にくれるのであった。

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