過去 1 週間のページビュー

2012年1月26日木曜日

きんかん煮

となりの患者について、とやかく言えるほど、私はごりっぱな患者なのか?
否。醜態、お騒がせは数知れず。例えばこんな事も。
入院中、緩解し、歩けるようになった時、デイルームに掲示される献立表を見て食事を楽しみに待つようになった。季節は秋、献立表にきんかん煮とあった。私は想像した。お砂糖か蜂蜜で煮た、オレンジ色の小さな丸い金柑が、つやつやと光り輝く様を。やわらかい皮が口の中ではじけて、ほろ苦さと甘さがまじり合うその感じを。小鉢の中に、5つぐらい入っているかしら。私はわくわくしながら夕食を待った。そして、6時、運ばれてきたトレーの上の小鉢、中鉢のフタを一つずつ開けていった。「ない!」「きんかん煮がない!」くそ忙しく配膳している看護師さんを呼んで、訴えた。「きんかん煮がないんです」
 すると、おしゃれな看護師の工藤さんが、真剣にとりあってくれて、「本当だ、献立にきんかん煮って書いてある」「きんかん煮って、甘く金柑を煮たのよね。お母さんがよく作ってくれるわ」トレーの上の一品一品のフタを開けて工藤さんも言った「本当にない!」。私は「ごめんね」といいながら、私のお鉢の載ったトレーを撤収する工藤さんに、くっついてナースステーションまで、てくてくと歩き、がっくりと椅子に座た。工藤さんは、私のトレーを机に置くと、献立表を片手に、調理室に電話をしてくれた。「献立表のきんかん煮がない患者さんがいるんです」そして、工藤さんは、なにやら説明を受けていた。そして、工藤さんは、紅潮した顔で私に言った。あんこさん「がんもどきの煮たのを、きんかん煮と言うんですって!」
「すみませんでした。」と何回か言ったけれど、工藤さんの返事はなかった。(登場人物の名前は仮名です)

0 件のコメント: