今度は、何だ、一体何事だ?『ぽっこん』という済んだ音が鳴っている間、私は一瞬考えた。夜中にビードロ遊びが始まったのか。退屈になったのか、気晴らしか、しかし、夜中の2時だ。時間を考えろ!いや6人部屋でビードロ遊びは昼間だって大迷惑だ。大体なんでビードロなんてモノがあるんだ?「退屈でしょうから、故郷のビードロを持ってきたわ」なんて見舞客でも持ってきたのか。
よーく耳を澄ましていると、ストロー付きのプラスティックの飲み物の容器をちゅうちゅう吸って、その容器の底が上下してポッコン、ポッコン大きな音を立てているようだ。もう下剤漬けのピーピー状態も5日目になったろう。喉が渇くのも無理はない。しかし、夜中にこんな音を立てなくても。
8分間隔のおむつ交換に文句は言えないけれど、切れかかっていた私は気が付いたら「うるさいぞー!いいかげんにしろ!」と怒鳴っていた。
すると老女は、ポッコンを止めて「ちゅいません」と言った。歌麿のビードロを吹く女の色気とは対照的な老女の言葉と声になんだかおかしくなった。