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2008年7月28日月曜日

おもしろ話8(となりの患者)

 もはや私には肩書きなど何もない。今あるとすれば「病人」だ。昔の名刺は、お醤油をこぼしたように黄ばんでいることだろう。
 6人部屋で少しの間となりだったねーちゃんは親しくなった人に名刺を渡すらしいという噂があった。私は親しくなれなかったので、名刺はもらえなかった。従って、どんな名刺なのか本当に名刺があるのかわからない。
 しかし、ねーちゃんの名刺はどんなものだろう。肩書きは「病人」?それとも「患者」か。「○○○病患者」と病名明記か。彼女の疾患からすると、小学校、中学、高校とほとんど休み、常にぎりぎりの出席日数での昇級だったと想像される。仕事に就いたことはないであろう。だから、名刺が働いていた頃の社名や役職などが記載されたものであるはずはない。ねーちゃんは半年前も入院していたと言う人がいれば、いや一年前も、一昨年前も入院していたと言う人もいる。病院が定宿というか住みかのようだ。そうすると、名刺には病院の住所地が記されているのか。
 病棟には、20年来入退院を繰り返している人が何人かいて、20年とは言わずも古株がいっぱいいる。中には物見高く、私が新顔だと思うと、廊下を歩く私を呼び止めて「アンタ何の病気?」といきなり尋ねてくる。私は軽く会釈して、後ろを向いてしまう。
『病気の事なんかしゃべりたくはない』『年長とはいえ、失礼な奴だ』と思う。しかし、どんなもんだろう患者がパジャマの胸ポケットに名刺を入れていて、廊下で会った時などに、「どうも、どうも」と言って名刺交換をする。私なんぞは、病名が3つもついていて「ごりっぱですなぁ」なんて言われて、「いえいえまだ3年のキャリアですから若輩者です」と答える。こんなことを想像すればコメディーだ。

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