個室病棟にいた水上さんは一見綺麗なナースだった。170センチ近くの身長で、すらりとした色白の25歳。おべんちゃらをちゃらちゃら言うのが癖になっている私が、「すごく綺麗!」と水上さんに言うと「両親に感謝してます」と水上さん。そんな水上さんはいつもマスクをしていた。ところがある日、マスクをしていないのを見てビックリ仰天した。ヒラメのようなエラ張り顔だったのである。
その水上さんに一つ噂があった。それは、絶対に残業しない。5時きっかりに仕事を終えるというか止めるという話だった。
ある朝、その日の私の担当ナースが林さんだと言うので、シャンプーを頼んだ。林さんは本来の私の担当ナースなのでお願いしやすい。林さんが日勤の日は原則林さんが私を看護してくれるのであるが、林さんは、しばし重篤な患者の看護に就くことがあってそういう時は別のナースが私を看護する。林さんは、水上さんと同期で、仕事熱心で勉強家の可愛い感じのナース。
林さんは、シャンプーを頼んだその日もバタバタと忙しそうだった。午後にしてくれることになっていたが、何度か部屋に来て「もうちょっと待ってね」と言い、慌てて病室を出て行く。3時が過ぎ、4時を回った。5時10分前になったその時、林さんの大きな声が聞こえてきた「水上さーん、あんこさんのシャンプーお願い!」
私はぎょっとした。5時まであと10分だ。よりによって5時女の水上さんに頼むなんて。私は考えた『頭の右半分だけか、いや後頭部だけか、泡だらけで終了か』いずれにしても最悪なことになりそうだ。
水上さんは部屋にやってくると、私を車椅子に乗せて、洗い場までびゅんびゅんと押した。その時、私は噂は本当だと確信した。どんなふうにシャンプーをしたかというと、簡単だった。シャンプーの液をつけて流しておしまい。つまり、ごしごしと洗う行為は一切省略。ブローはいつも部屋で私自身がやるので、5時に終わった。
お見事!と思った後で、一週間に一度洗ってもらえるかどうかという状況で私は苦々しい思いがこみ上げてきた。そして、なんで林さんは5時10分前に水上さんに頼んだのだろう・・・・(登場人物の名前は全て仮称です)